2015/05/18

『her』

her 2013

監督/スパイク・ジョーンズ
ホアキン・フェニックス、スカーレット・ヨハンソン、エイミー・アダムス


スカーレット・ヨハンソンの声が良い。ハスキーで、ちょっと気が強そうで、素直さもあって。

ちょっと未来な感じの、ビジュアルも素敵。アジア系のひとがたくさん映るなと思ってみたいたが、ロケに上海も使っていたのか。クリーンな人工都市風で、何となく体臭が除去されたかのような風景でした。

インテリアや人々の服装も、透明感とフラットさがあるというか。重量感が少ない映像が、聴覚を通じてやりとりするセオドアとサマンサの2人の世界に合っていた。

最後は人間の知性を越えてしまうというのは、SFではよく見る展開ながら、そこに恋愛感情が絡むのが、知性の問題より心の問題となっていて、面白い。『Lucy』でもスカヨハは、最後に超知性になってしまったっけ・・・ 肉感的なのにそういうのが似合うのね。

ダブルデートの最中に、冗談で人間は死ぬけど自分は死なない、の意味のことをサマンサが言ったときの、衝撃。けっこう恋愛モードの2人がほほえましくて、セオドアが幸せならいいんじゃないかと思い始めたところに差し込まれているので、そういえば、そうだよねと有限の肉体しかない人間が負けた感。

非言語ですでに亡くなっている哲学者をPC上に構築したものと会話してるサマンサ、でもこれ、言われてるよね。人工知能はいずれ人間知を越えたものになって、特異点を迎えるという話。人間は感情に強く支配されているから、こういう風に人工知能に去られる、という風にみなすのかもしれない。

セオドアの寂しさ、清潔な風景のなかで、クリーンな世界のなかで人はどう寂しさと生きていくのかと、つくづく考えてしまう。映画の世界も、とおからず、という気がしてならない。

2015/04/10

『イミテーション・ゲーム』

THE IMITATION GAME 2014

哀しいなぁ・・・ 寄宿舎時代の思い出から、エニグマ解読時の華やぎ(その中にも苦悩が埋め込まれていて)、そして終戦後の再びの孤独。

同性愛が病気として扱われ、治療対象だったことを思い出した(すっかり忘れていた)

チューリングが同性愛者であることから生じる、社会との摩擦、無理解、ストレス。それから、凡人には理解できない頭脳を持つことで生じる、社会との軋轢、そして無理解によるストレス。
学者としてもつらい時代だし、個人的なありかたも世間には受け入れられない二重の苦しみが、素晴らしい才能を41歳でこわしてしまったのだ。

B.カンバーバッチは、分かりやすく(しかしやりすぎではない)特異な人物としてチューリングを表現、映画で天才を現すならシンプルな表現だった。時々、目標に向って一直線なあたりが、私には、きもちわるいひと、に一瞬見える。私は感情で受け止めてしまうから。

チューリングとチームを取り持ったキーラ・ナイトレイ。久々に可愛らしい役でよかった。「ラブ・アクチュアリー」以来の可愛さだった。彼女が心とともに理性で真正面で受け止めているあたりで、バランスがとられていたと思う。

刑事役で登場のローリー・キニアも良かった。彼が演じているとその人物に血肉が通います。救いたい、と申し出たけれど、チューリングはうまく立ち回るなんてしないし、男たちのゲスい感情もあって、男娼を買った罪で有罪になってしまった。

いまこうやって一般人が仕組みもわからず使っているもの、コンピュータの基礎を作った人物である、とラストに書かれており、この偉大すぎる功績は、偉大すぎて当時の世界では理解できる人間はわずかしかいなかったのだなと痛感する。

理解できないからといって、変人扱いして簡単に遠ざけたりしてはいけないんだな・・・
難しいけれど。
最終的には、人権問題だよね・・・としみじみ哀しくなって映画館を出たのだった。

2015/04/05

『Kill Your Darlings』

2013

Director: John Krokidas
Writers: Austin Bunn (screenplay), Austin Bunn (story)
Stars: Daniel Radcliffe, Dane DeHaan, Michael C. Hall, Jack Huston

ギンズバーグってこんな可愛かったっけ・・・(もじゃもじゃのすごいメガネのイメージだから) ま、お話はお話。

美青年の魅力は、周囲も本人自身をも食い物にして消費して吸い尽くしてしまうのね、ああ、そしてブサイクなほうが生命力強いのだよ。ラドクリフはブサイクじゃなかったけど。

ようやくハリー・ポッターに見えないラドクリフでした。デハーンって、いじめたくなるような翳りがあって、この役にぴったり。芸術の混沌というよりも、青年たちの欲望や自制のきかなさ、弱さと自尊心が入り乱れる、そんなある一時の物語でした。
汚く描こうとすれば、どこまでも汚くなりそうな話を、すっきりとした画で描いていて、ひどい気分になったりはしない。
また、当時の学生たちの服装とかインテリア、もろもろが好みでした。

ビートニクの文学はちょっと避けてきたところがあって、ドラッグとかヒッピーとか? 若いうちに読んでおくべきだったのかなぁ いま、読んでみたらどうだろうか。




2015/03/15

『ダラス・バイヤーズ・クラブ』

Dallas Buyers Club 2013

Matthew McConaughey
Jennifer Garner

Jared Leto

Directed /Jean-Marc Vallée

エイズが同性愛者特有のものだなどと言われていた1985年、エイズの診断で余命30日の宣告をされた男のその後7年間の戦いのドラマ。

アカデミー賞 主演男優賞、助演男優賞、メイクヘアスタイリング賞 受賞。

汗とビールと女にまみれた冒頭の主人公が、生きてやる、の根性のままに病気と薬をリサーチし、アメリカ国内で入手できないとわかると、メキシコのもぐりの医師から調達。自分もそれを使いつつ、国内で売りさばくビジネスもはじめる。日々を適当に暮らしてそうにみえた男が、案外と生きたいという欲望には素直で、薬も止め、健康的な食事に気をつかうようにもなるのが面白い逆転だった。
ゲイ差別にくわえ、エイズ患者への差別もひどいし、土地柄もゲイへの差別が強いところだから、ビジネスパートナーになるレイヨンとの友情のようなものが生まれる過程は、ほろっとする。

両俳優ともに、ものすごい減量で見た目から訴えるインパクトが激しい。体力がなくなっていく様が、演技を超えたもの(実体験だから)。アカデミー賞は体を張った演技好きね。
悪くなかったけど、もし減量したことに対しての賞だったらガッカリだ。
演技でいえば、助演のジャレット・レトのほうが見栄えしてたと思う。マコノヒーは激しい人生となった男にしては、とても冷静な目をしていた。そういう役作りだったのか?

ジェニファー・ガーナーを久々に見たが、優しさと知性が落ち着いた雰囲気に収まっていて、良かった。

舞台となっているテキサス、何もかもを無化してしまうような雰囲気があるのは、どうしてだろう。オレルールが通りそうな気がしてしまう。

製薬会社の利害、医者の利害、政府の対応が患者を置き去りにしている。これが男の生きたい欲求を邪魔してしまう。
結局、製薬会社の押す薬は副作用も効き目も強すぎて免疫をこわしてしまうことが分かり、もぐりの医者のすすめる薬で彼は生き延びられた。7年。何を選択するか自分のことなのに、蚊帳の外に置かれているのはもどかしい。

耳鳴りの症状が、体調悪化すると登場し、効果音としてキーンという音が入っていたのだが、これが直感的に観客側にも辛さの一部を体験させていた。私も耳鳴りするので、これは辛い症状だと思う。

日本の研究所にまで来た場面が、何だかツライ。こんな遠くにまで来たのか・・・

2014/12/07

『インターステラー』

 Interstellar 2014

Matthew McConaughey
Anne Hathaway
Jessica Chastain
Bill Irwin
Ellen Burstyn
Michael Caine
Matt Damon

Director/Christopher Nolan
Music/Hans Zimmer

映画館で見るのに相応しいスケールの映画、冒頭に老人たちのインタビューがあるせいもあって、全体的にドキュメンタリな雰囲気あり。しかもNHKの科学番組みたいに、現在の科学が考える宇宙空間の表現に手ごたえというか、現実感があるのがスゴイ。

ノーラン&音楽がハンス・ジマーだったのでもっとドカーンと盛り上げてくるのかと思いきや、詩情豊かにむしろ静寂を大事に美しい宇宙空間の映像にそっと寄り添う音楽でした。やるなー。

日本の広報としては、父子愛の物語をメインに宣伝していて、間違いではないけれど、雨中へのロマン、未知なる世界への憧れを掻き立てるような宣伝もしてほしい。

縦軸には、もちろん主人公マコノヒー演じるクーパーと、娘マーフとの強い絆があります。いつ帰ってくるかも分からない(帰ってこれないかも)ミッションに参加すると決めた父への失望、怒りできちんと挨拶しないまま離れ離れになってしまった父娘。父は遠い宇宙で、娘は地球で、自分たちが生きる人類を絶やさないことを目標に頑張ります。

・エンジニアでNASAパイロットの父。すごい秀才でした。相対性理論もいちおう分かってるよらしい。すごい。娘にも理論的に思考することを日々説いてます。で、これがのちのちの伏線に。
・娘の成長した姿が、ジェシカ・チャスティン。砂嵐のなか立つ姿は『ゼロ・ダーク・サーティ』を思い出させ、チャスティンなら絶対にやり遂げるだろうという期待がますます高まります。不屈の女にぴったりの闘士の顔。

地球滅亡から人類を救うための新天地を探すという、途方もないミッションと、父娘の愛情という個人的な物語が、破綻なく無理なくラストで合流するあたり、私も“ユリイカ!!”と叫びたくなる衝動に駆られました。いろいろ困難がありすぎて、地球にいたころの話のことに気を向けてませんでしたが、そうなのねーという繋がった!嬉しさ。

『インセプション』でも構造解説の場面が好きですが、あの5次元空間は、ハイライトでしょうか。次元を超えられる存在・・・の一端をクーパーは感じて、メッセージを送ります。ここで簡単に会えないのがツライ。STAY! このあたりは、いわゆる日本版宣伝の肝になる場面でしょう。素直に泣いた。
ただ、泣く、ということ以上に映像がきれいなのが、素晴らしい点。人間の崇高さも声高にではないけれど、信頼すべきものだと訴えている。

ところで、小学生くらいのころに読んだ4次元世界に突如飛ばされる男の話、非常におどろいどろしい表紙で、怖かったことだけが記憶に残っている。読み直したいけど、当時ですら黄ばんでいた本なので難しそうなのですが。つまり文字で4次元、5次元の話を読むのは分かりにくく、かつ何だか恐ろしいものだとずっと思ってきたのです。
でもこの映画のお陰で、ちょっと恐怖が薄れたかも。

最後、アン・ハサウェイ演じるブランドがひとりついに見つけたかの惑星で、恋人を埋葬し、長い眠りにつこうという場面。宇宙服のマスクは取られ、空気も清浄であることが示されています。こここそ、みなが求めた新天地。

ブランドは、クーパーがガルガンチュアで自分を生かすために離脱していったのを見ているので、クーパーが自分を迎えには来ないと知っているが、地球から誰かが迎えにくると希望を繋ぐ場面です。来ないかもしれない・・・というか、来ないほうに賭ける、という場面ですが、ブランドの表情は哀しそうでもあり嬉しそうでもあり。

ところで、事前の出演者情報にはあまり目だってなかった、マット・デイモンがオイシイ役で登場してきました。氷の惑星で、生存可能な星であると嘘の報告を地球に送ってスリープしてた科学者、マン役です。
他の場面では丈夫だなあと思う宇宙服が、なんと人間同士、マン博士とクーパーが頭突きしあうと、ヘルメットの前面が割れて空気が漏れ出す(&アンモニアの多い惑星の空気が入ってくる)緊急事態。そんなゴッツンゴッツンしただけで、ヒビ割れてしまうの??
怖いわ・・・ ちょっと笑っちゃった。

これと思った惑星が住むには相応しくないと知って(この旅は一方通行なので帰還できない)、自分の生存のため、自分の欲のため、嘘をついてしまった人間。父ブランド博士も死に際に懺悔しますが、人間の弱さを感じさせる二名のあり方でした。

マイケル・ケインが飛び立つクルーに向って詠唱する詩、これが危険な任務につくものたちへの励まし?と思って聞いていたら、クーパーの危機においては、まさしく鼓舞する詩となり、悔しいがカッコいい。
作者が詠んでいるのがあった。いい声!

しかも、宇宙船乗っ取ろうとして母船破壊する悪行の限りをつくしてしまうマン博士。すごい隠し玉でしたね。なにもかもをぶち壊し、破壊王であった。

地球の自分と同じ年になっている娘マーフから、人類は救われないのだとブランド博士が知っていたことを知らされ、大ショックのあとも、まだ可能性はあるかもしれないと希望を捨てないクーパーらがカッコよかった。よくアメリカ映画ではパニックになって騒ぐ人が登場するが、クーパーとブランドは選ばれし者であって、冷静に最善を尽くそうとします。宇宙に飛び立つ人はこうでなくては。

輪になる感じ、きっとどこかで何か見ているはず・・・という既視感が強かったのですが、何なのか全く思い出せません。終ってみれば、ものすごく奇をてらった話ではなく、むしろあり得る物語として製作されたことが、SF映画として考えた場合、ものすごく深いなと感動が起こってくる。秘密道具もなしで、現実感を失わずにSF映画を作ったノーラン監督、やったなー!
ものすごく冒険してるのに、冒険モノというよりも科学的な面が心に残るとかね。

それから。あのロボットたちが可愛すぎるうえに、ブランドを助けに来るすばやさには海兵隊員のマッチョぶりも備わっていて、もうもう! 我が家にも一体欲しいです。ミニチュアあったら飾りたい。あの造形は素晴らしいアイデアだ。TARSとCASE、名前もかっこいい。

2014/04/29

『LIFE!』

2013年 LIFE!

☆☆☆☆☆

ベン・スティラー/製作・監督・主演
クリステン・ウィグ、ショーン・ペン、シャーリー・マクレーン、アダム・スコット、
パットン・オズワルト、キャスリーン・ハーン

こういう映画が好きだ。普通のひとの、素敵な出来事。ベン・スティラーのプロフィール見て今、いま気づいた。『リアリティ・バイツ』監督したということに。好きだったなぁ
すっかりベン・スティラーも好きになった。

白髪まじりの短めヘア、節制してるよねという体型も素敵だ。
キャラ設定も、いい年して、空想。妄想が止まらないところなど、オレのことか・・・と前のめりになってしまう。

ヒマラヤでも携帯電話がつながる時代に、探す写真家にだけ会えない設定も、シンプルながら人と人のつながりについての変化を見せるうまさ。

そうそう、だってほんの少し前までは、こうだった。
兼高かおるさんの番組にときめいた日曜日の朝みたいに、ドキドキしながら主人公・ウォルターの冒険を見守った。
世界は広いし、誰かとつながることも、簡単じゃない。

スケボーが超絶うまい設定には、そんな隠し玉が・・・!(うらやましい) だけど、誰にでも得意なことあるでしょって言ってもらったとしよう。あったかな。

ショーン・ペンがまた追いかけたくなるようなカッコいい写真家で、ほとんどラストにようやく出会うところでしか登場しない奥ゆかしさ。
こういうカッコいい男に、君のおかげだ、信頼していた、と言われる喜びといったら、これまでの仕事すべてが報われるとはこのことかという感動だ。

認められ、必要とされる仕事をしたいっていうのは、誰にもある欲求ではあるけれど、なかなか叶えられないことも多いかと思う。ウォルターのように大事な仕事だけど表に出ないような業種だと特に。

その一歩がなかなか難しいんだ、と思いながらも、もしかして、何かのときに私の背中を押してくれるんじゃないか?と思うような素敵な作品でした。

シャーリー・マクレーン演じるママもチャーミングでした。家族が温かそうなのも、ほっとする点だったな。

音楽も素敵。Jose GonzalezのStep Up 壮大なイメージのオープニングでカッコイイ。サントラ買おうかしら。
そしてウォルターを揶揄ったり、勇気づける歌にはDavid Bowie のSpace Oddity
Jack Johnson1 も使われていて、私好み、ど真ん中すぎ。

映像的には、アイスランド、グリーンランド、ヒマラヤ。人気のない風景の清々しさ。

ヒマラヤ登山には少々軽装じゃないかと心配したけど、映画だからね。あんな高地でサッカーなんか、私には到底できないですが、映画だから許す。というか、ここの場面までの流れが良かったので、全然気にならないわ。

視点が空から、地面から、水平、潔い構成なのもすっきりしてます。ライフ社の会社前の俯瞰映像も、きれいでした。タイトルをOP映像にはめ込んでくるのも、押し付けがましくないオシャレ具合でにくいぞー、ベン・スティラー。

衣装も好みでなー。何もかも好きだ。

2014/04/13

『マグノリア』

1999年 Magnolia

監督/Paul Thomas Anderson

封切り時に見たはずだけど、全然内容は覚えていなかった。というわけで新鮮な気持ちで鑑賞。

出演者はじめ、Paul Thomas Anderson監督は好きなんだと思う。イケてない(なさ過ぎない)人々が多く描かれるところとか、音楽とか。表情アップも多いと思うけど、あんまりイヤじゃないのも不思議。

カタルシスのない普通の人の一日を切り取る取った場合の、映画的なカタルシスが蛙なのか。蛙が降ったからハッピーになったとか、不幸になったとかではなくて、何かのきっかけになったかもしれないけれど、ただそれだけ、という全ての価値が対等に扱われている感じだ。

公開時の扱いは、エンタメ映画とは違うぜという雰囲気だったと思うのだが、いま見直してみると、重々しい出来ではないあたりが、程よい見易さかと思う。

イケイケで語るトム・クルーズが可愛いし。
先日亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンもいい。
少しずつ、少しずつ追い詰められていく人々を淡々と見せていきます。

上映時間は3時間越えで、これは退屈、という感想も多かった。考えてみると、ジュリアン・ムーアの役がよく見るハリウッド女優ぶち切れ演技だったものの、他は静かにキレる人が多くて、その点も退屈さを感じさせてしまう要因だったかと。

じわじわと、何気ないことでも大事件でも、とにかく自分の過去と自分自身からは逃れられず、その体を持って生きていくしかない。

こんなに愛があふれているのに、与える相手がいない、と嘆く元子供クイズ王の嘆きは、最後の最後で胸を打つセリフだった。
与えられる相手がいるのは幸せね。

何でタイトルがマグノリアなのか・・・知りたい。