ISBN:978-4309252186
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19世紀半ばの、ヴィクトリア時代、世界最大の都市だったロンドン。下層の人々の住む地域でコレラの感染があっという間に広まった。
コレラは原因も治療法もわからない、致死的な新興感染症で、インドとの貿易が拡大するなかで、交易網に乗ってイギリスを襲うようになっていたのだった。
当時の常識ではコレラは悪臭や死人がつくりだす「瘴気」が原因だと言われているなか、目に見えない細菌が原因だとする説にどうやって至ったのだろうか?
これは原因がコレラ菌に汚染された井戸水だとされ、ポンプの柄が外されるまでの1週間たらずの間の物語ともいえます。
章立ては曜日ごとに分けられ、二人の探偵が原因を突き止めるまでを時系列で一緒に追っていくような展開、面白い。
探偵のひとりは、ヴィクトリア女王の無痛分娩を成功させた麻酔医、ジョン・スノー。ひとりは渦中のブロード・ストリートの牧師、ヘンリー・ホワイトヘッド。
実験、仮説、実験、思い込みを排除し、理論立てて原因を突き止めるスノーの冷静な知力と粘り強い調査と、毎日のように住民と接する経験から、汚水や無知が病気の原因ではないとの実感が手を結んだとき、目に見えない細菌が冷たく美味しいと評判の井戸水に流れ込んだことがコレラ感染の原因だと突き止めるに至ったのだった。
彼らの足取りと推理の過程とともに、なぜそれまで原因がわからなかったのか、なぜロンドン市の役人たちが反対の立場をとったのか。
当時の医学の常識や市民、マスコミ、医者までもが信じていたでたらめな治療法などを織り込んみながら、彼らの生きた時代の常識や雰囲気も味わえるのが、この時代を立体的に感じ取ることが出来てよい。
たとえばー、人口が爆発的に増えたのに、下水は未発達だった。さらにそれまで各家で溜めていた糞尿は、清潔な!水洗式トイレの登場で、大量の水を含んだ汚水では、すぐに肥溜めがあふれるようになった。あふれた汚水は下水にも、道にも、川にも流れ込み、ロンドンは最悪の悪臭都市になっていたのだ・・・というような。