2011/07/28

『幽霊たち』ポール・オースター

ISBN:4-10-245101-3 新潮文庫



★★★★



軽快な出だしから、楽しい探偵家業の話、しかしいつの間にかゆっくりゆっくり密閉空間に閉じ込められていく感覚へ。



探偵は、ブルー。依頼主、ホワイト。調査相手、ブラック。



探偵は調査対象の住む向かいのアパートから、彼の生活を見張り、報告書をホワイトへ送る。簡単な仕事のはずだったのに、何も起こらない。延々と何も事件は起こらない。



何も起こらず、ゆえに探偵の仕事がいつ終わるのかが分からない。ほとんどアパートから出ないブラックをただじっと見つめる毎日を一年以上続けるうちに、探偵は自分自身の生活を失っていく。恋人も失った。そして、思考する時間だけがたっぷりで、自分自身の仕事のことを考え出す。



しかし、ホワイトの差し金でこの不自由なうつろな日々に追い込まれているのではと考えた探偵は、ついにブラックへ話しかける。彼が話すには、職業は探偵であり。誰かを見張る毎日、うつろな目。
自由になりたい、ブルーはついにブラックのアパートへ乗り込む。ブラックは仮面をつけて、銃口を向けて待っていた。ブラックは、ブルー。ブルーの立場は、ブラックと同じ。見つめていたはずの自分が、見つめられていたと判ったときの、背筋の冷たさといったら。



彼の行き先や、ブラックのその後は書かれない。生きてるのに、死んでしまうようなことのひとつが、自分の生活を奪われ、他人のシナリオに組み込まれることなのだ・・・



■もとはオースターが戯曲として書いたものを短編にしたとのこと。それ、読んでみたい。



■ブルーが思い馳せる過去の事件や、雑誌に掲載された未解決事件の描写、映画のような描写でカッコいい。



2011/07/23

『サはサイエンスのサ』鹿野司

ISBN:978-4-15-209104-8 早川書房 2010年



★★★★



SFマガジン連載をセレクト、かつ加筆修正。



科学のコラムはなかなか読まないので、読んでみようかなぁというところで手に取った一冊。客観的を装って筆者の意見がないタイプではなくって、鹿野さんの捉えている現在のサイエンス世界についてのお話がたくさんです。



文体は飲み屋で話しているかのようなスタイルで、パッと見はとっつきやすい。ただ、その科学的な考察そのものを吟味するような科学的知性を、私が持ち合わせていないので、面白い!とかそうきたか!などと思いたいけれど、思えない・・・



そんな私の読みポイントは、何が問題になっているのかを知る、という点です。再生医療、神経、ウィルス、気候変動など私の生活にも影響があるに違いないものを、科学目線で書いてくれてます。



連載をまとめたので、流れがとりとめないのが読みにくいところですが、どこからでも読めるとも。



2011/02/14

『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉

ISBN:978-4-09-386280-6 小学館 1500円



☆☆☆☆



「令嬢刑事と毒舌執事が難事件に挑戦!ユーモアたっぷりの本格ミステリ、ここに登場!」(帯より)



令嬢と執事、令嬢と運転手。といえば私は北村薫が思い浮かびますけれど、こちらの二人は男女で年も近い。らしい。
令嬢らしい事件解決(『富豪刑事』みたいな)ではなくて、あくまでも執事がさくっと解決してくれます。



お互いの立場があるのに、毒舌でお嬢様がコテンパンに言われるあたりが・・・ユーモア? しかし、ドタバタではありません。
ユーモアなら西澤保彦のラインが好きなので、物足りなかった。



短編集なので、読後感に物足りなさがあります。ぜひ次回は長編にしていただいて、何でもできるのに毒舌は直さない執事・影山がどうしてこうなのか?を知りたいです。そのあたりを含め、シリーズ化希望。



ミステリはおどろおどろしくなく、さっぱり目の殺人場面で読みやすい。本格・・・の定義は私には難しいのですが、トリックを解くのはちゃんとしてました。あまりトリッキーすぎないのも、読みやすいです。





2010/08/06

『天国旅行』三浦しをん

ISBN:978-4104541065 新潮社 2010年



☆☆☆☆



「死」に際して・・・テーマにした短編集。死と、愛情。



全体としては、ロマンティック度が高いので、三浦しをんのこのロマンティック加減の出し方がこの先も楽しみ。楽しみにしているので、ぜひ愛の暗黒面も開花させていただきたい。



黒い夢の話、好みでした。生まれ変わっても、男にだまされるなんて、黒いですね。でも、人間の同じ穴に陥りがちな愚かな面が書かれていて好きでした。



今は、まだロマンティックな物語の筋を、照れ隠ししているような言葉で進行させていっている。照れ隠ししてるのは作者ではなく登場人物のほうで、それが登場人物たちの奥ゆかしさでもある。普通の人々の愛情の物語が並んでいます。



それはそれで、気持ちよく読める。けれど、短編ではうまく切り取れ切れていない感じがしました。細部を書くが、紙幅が足りていないという感じです。





『虫目で歩けば』鈴木海花

ISBN:978-4-86020-386-3



☆☆☆☆



虫は好きではないです。特にチョウチョ・・・とセミがいやだ。ああ、いやだ。腹の感じがいやだー。



しかし、こちらの虫愛ずる姫さまの本は虫への愛や興味が素直に読めて、楽しかったです。確かに、図鑑で見てるだけならきれいな種類もいるし。あと、虫をじっと見てる著者の姿も可愛いの。



手軽なだけに、画像が小さいのが難点。苦手な人にこそおすすめな1冊。



ボディが硬い虫はそんなに嫌いではないので、散歩しながら虫を探すようになっちゃいました。テントウムシは虫と呼びたくないくらいに好きだし、そういえば蜘蛛も嫌いではなかった!



興味を持ってさがすと、可愛いような気さえしてくるから驚きです。まだ、「気がする」レベルですが、身近な自然の一部なのに素通りはもったいないと思わせてくれました。





2010/08/01

『蝦蟇倉市事件1』道尾秀介、伊坂幸太郎、大山誠一郎、福田栄一、伯方雪日

2010年 東京創元社 ISBN:978-4488017354



☆☆★



蝦蟇倉市で次々と起こる不思議事件のアンソロジー。いちおう、前の作家の作品の内容を受けているようです。緻密な連作などではなく、ざっくり「なぜか不思議な事件が起こるんだよねー」という感じ。
事件は起こるけど、謎解きの内容でおおっと唸ったのは伊坂幸太郎くらいでした。



これに1785円って・・・・文庫でいいよう。