2012/11/25

『黄金を抱いて翔べ』

2012年



監督/井筒和幸
妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン、西田敏行



★★★★



原作:高村薫 未読。



妻夫木聡、いい顔になってきたなぁと喜ぶ映画。浅野忠信のガタイがいいのも見目麗しいし、暗い溝端淳平もいい。
桐谷健太は情けない感じと調子者のアクセントがよいし、チャンミンも(時々、木村拓哉と被るのだけど)悪くなかった。可愛がられる役ってことでいいのでは。



西田敏行・・・・うーん、哀しいね。本物なのかと不思議な太鼓腹に哀しみが詰まっていた。青木崇高が、散々なヤクザ者という役どころで素晴らしかった。



余計な女も絡まず(コレ大事)、すっきりした展開。



希望を言えば、大阪の町のこってりさが画面や言葉に足りなくて、もっとコテコテで!と思ったが、あまりコテコテにするとチャンミンあたりが浮いてしまうのかもしれないなぁ 青木崇高がひとりコテコテ担当で、楽しませてもらった。



夏の暑さ、追われるウラ世界のじとじとしたダメさ加減、ダメだけどあきらめてない。何を? 分からないが、なぜかあきらめず走っていく男たちを、陰から眺めることが出来る映画であった。



爆破シーン、良かったわ。かっこよくないの。それがいい。



タイプが同じとは言わないけれど、L・ディカプリオと妻夫木くんが重なった・・・ 悪い男であっても、一瞬、純粋さが走ったりとか、彼が痛めつけられてる姿にぐっと来てしまうところなど。



痛めつけられてるのに、甘美なヨロコビが脳裏に浮かんでしまう、そんなタイプ。あ、たとえば主役しか出来ないトム・クルーズだと甘美には遠くて、早く脱出しなよ、って思うだけだったりします。



妙なオヤジギャグがところどころで炸裂し、劇場内にひんやりした空気が流れるのも、井筒監督の目論見どおりなのよね? 面白くないギャクを言う浅野忠信、良かったです。



隣の席のおじさん(お一人様、私もだけど)が、妻夫木くんが撃たれてしまったあたりから、ぐずぐず泣き始め、ラストでは涙をぬぐっていたのが衝撃的であった。何があった、おじさん・・・



前方席のおばさま。冒頭、モモが兄を撃ったところでお前が撃たれたか!ってくらい響き渡る叫び声をあげる。ちょっとカワイイ。この後は静かにごらんになっていました。









『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』リチャード・ワイズマン

文芸春秋 2012年 ISBN:978-4163749204



オカルトやスピリチュアルにまつわる過去のいかさま事件と、実際にやってみようコーナーを挟みながら、それは脳の錯誤だとか、思い込みだとか、簡単なトリックなのだ、と軽い口調で(そういう訳でした)解説している本。



この手の本は何度か読んでいるので、新鮮味は少なかったものの訳が柔らかいので、こういう話が初めてならおすすめできそう。私のように、何冊かすでに手にしている人だと、物足りないかも。



脳の思い込みとか、トリックで説明できるのはいいのだけど、幽霊が見えるひととどうやって会話すればいいのかまでは、書かれていなかった・・・そこが知りたかったのだ。



他人の考えを変えることは、お互いに難しいこと。分かり合えず、平行線のままなのかしら。








『和子の部屋  小説家のための人生相談』 阿部和重

朝日新聞出版社 2011年 ISBN:978-4022508706



阿部和重が女性作家を相手に、主に小説家としての悩みに相談に応じる対談集。



のちに結婚する川上未映子とも対談していて、面白い。いつか読もうと思いつつ、手が出せていない作家・阿部和重。



彼の作家としての思考の道筋の一端が垣間見える。と、同時に、対談相手の女性作家たちの同じく作家としての思考のあり方も見えます。



人のことは良く見える、というのはこういうことかなと思うくらいの爽快ささえ漂う相談の流れに、阿部和重を見直したというところ。
読んでもないのに見直すのはおかしいから、イメージが変わったといえばいいのか。



回答は爽快ながら、阿部和重の書くものは予めゴールがあったところへ、プラス、プラス、プラスの方向らしい。
終わりが見えません、と相談していた朝吹真理子と対照的だった。



小説家の創作の多様さも感じられ、楽しそうな対談のなかにそれぞれの仕事へのこだわりなども読むことができます。



やっぱり、阿部和重は読まないといけないなと思わせる、和子さまの知的な回答でした。






2012/10/16

『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー



★★★★ -1の理由:人が死にすぎる。



原作未読。
どうしようもない悪(権力、闇社会などにあらわれる)と、一市民との対決というのは伊坂作品で何度か目にしている構図。



普通の男・・・人のいい青柳くんが、首相暗殺犯に仕立て上げられてしまうが、学生時代の仲間や、彼が今までに築いてきた人間関係によって窮地をぎりぎりしのぐという話。



普通の男ががんばるというのはいいものだけど、同時に超人的なワザもないので戦いは苦しい。そして、男にきせられた首相殺しに関わる人間たちも、大勢死んでしまい、これもつらい。



人のいい男として堺雅人はうってつけでした。いい人だけど、諦めずヤケにならず策を練るあたりが、とても好人物。
助ける仲間、後輩のカズ役は劇団ひとり。彼も普通の男らしく好感。
学生時代の恋人で、今は別の男と家庭を持っている樋口役に竹内結子。クールな娘とともに、こっそりと青柳くんを助ける。



人間の最大の武器は習慣と信頼。



人間関係あってよかったね、みんな素敵な仲間たちだったね、というアピールがあると白けるところだけど(私の好みだと、さらにクールに振る舞ってくれるほうが嬉しいが)、ぎりぎり、やるじゃん、俺たち!と拍手できるところ・・・かな。



ファンタジーすぎず、ぎりぎりリアルとファンタジーの境目なのかも。悪役の香川照之が類型的な役づくりにしているのも、きっとぎりぎりファンタジー風味を出すためなんだろうと思う。



などという点では、原作者のもつ雰囲気をよく出しているのですね。



音楽は全て斉藤和義によるもので、ロック!ロック!ロック! 躍動感があってまっすぐな音楽が青柳くんのこころの青春を表しているよう。とても良かったです。





『ソラリス』

ソラリス Solaris 2002年 アメリカ



監督/スティーブン・ソダーバーグ
ジョージ・クルーニ,ナターシャ・マケルホーン,デレミー・デイビス,ヴァイオラ・デイビス,ウルリッヒ・トゥクール



★★★



「ソラリスの陽のもとに」レフ著,が原作で,過去には『惑星ソラリス』タルコフスキー監督で製作されているそうだ。



惑星ソラリスの探査をしているプロメテウスでは異変が起き,地球とのコンタクトが取れなくなっていた。そして乗組員ジバリアンから,心理学者のクリス・ケルビン(クルーニー)あてに,こちらに来てくれとメッセージが入り,調査に向かうことに。



 



到着するとSOSを送ってきたジバリアンは遺体となっており,二人の乗組員のみがいるだけで他の乗組員も自殺してしまっていた。



夜になればわかる,と言われたその夜。



自殺のため死んでしまったはずの妻レイアが,ロックしていたはずのクリスの室内にいつのまにか居た。彼女はなぜ自分がここにいるのかが分かっておらず,自殺したことも記憶にはないようだった。
肉体も記憶もある,すでに死んだ人間が目の前にいたのだ。



クリスは彼女をステーションから宇宙へ放出。



そして二日目の夜。うとうと寝て,目を覚ますと,そこには妻レイアが再び室内に。昨日の記憶はなく,やはりどうやってここに来たのかも記憶がない。



死んだ人間が目の前に現れるのは間違っている,とレーザーのような装置で彼らを消し去るという科学者。失ったはずの妻を二度と失いたくないという執着から,賛成できないクリス。
危険なことだと理性では分かっていても,どうしても温かく美しい妻を処理することができなくなってきていた。



自分というものが,本当に間違いなく自分自身であることをう疑い始める不安感は,妻のレイアがになっていて,どうやったら保証してもらえるのか,これはアイデンティティの問題?



自分がクリスの記憶から生まれたものであると自覚した彼女は,自ら装置で消し去るよう願いでるが,クリスによって阻止されたため,薬品をかぶって死のうとするが,照射以外の方法では生き返ってしまい,まさに死にながら生きている状態。



ほぼ妻であるこの目の前のものを,妻であるとして執着するクリスは,愛の名の下に生死の境界を守ることを放棄。
最終的には,地球へ帰る船に乗らず,ソラリスへと落ちていくステーションとともに残った。



・・・アメリカ人は本当に何でもかんでも,愛の話にしてしまう!



原作も前作も読んでいないけど,たぶんソラリス的なもの,とか神の問題とかを扱っているはず。たぶん。



不安定になっていた妻は,妊娠したことをクリスに言わずに堕胎していた。もはや彼女を受け止めきれず,ケンカの挙句,生きたくなければそれでいい,的なことを言って家をでてしまい,少し後に帰宅してみるとレイアは自殺していた。



そういう負い目もあって,本物でなくても本物だと思うことにしたい,と思いが暴走。そこで自分はニセモノだから消し去ってほしいという彼女のほうがまともな判断である。



深遠なテーマと思わせておいて,意外とクリスの愛妻を失ったことによる喪失感,虚無感,後悔をソラリスが囲い込んでしまうという話のようでした。



クリスの記憶からレイアが生まれたのならば,彼女といることは過去の思い出のなかに閉じこもることです。それは,自分の人生を生きているとは言い難い。



レイアとの出会いや生活のシーンも予告なしにすっと入ってくるので,どれが過去のものか,どれが現在のものか,どれが想像のものか,混乱するように仕向けられています。こうなると,最初からすべてクリスの心象を見ているといえます。



<わたし>はどこにいるのか,誰かの記憶のなかでしか見つけられないものなのか。



クリスのこじれた愛とともに,これがテーマだったのかと思います。






2012/09/17