2008/02/29

『日本魅録』香川照之

ISBN:978-4873762784 キネマ旬報社 2006年



☆☆☆☆



雑誌、『キネマ旬報』に連載中を単行化。巻末にオダギリジョーとの(短め)対談掲載。



だいたい、写真1,2枚とともに記事があって、俳優さんや現場の様子がほんの少しではあるけど、垣間見ることができます。



なにか暗くて、かつ熱い感じ。40に近づいた頃からからぐっと良い顔になったなぁ、の香川照之の熱い心が綴られています。



もっと一歩引いた感じなのかと思ったら、自分の目からみた共演者の様子とか役に対する取り組み方への評価がはっきりしていて、想像以上に文章がきらきらしいのも驚きでしした。



松嶋菜々子をベタ褒めなのは、合点がゆかないけどな。ふーん。
『北の零年』での吉永小百合との会話、行定勲、崔洋一監督のこと。中国映画にもいくつか出演されていて、チアン・ウェン監督の現場の地獄ぶり、などなどなど。
俳優としては山崎努が目標にあるとか。セリフがなくても存在感にあふれた男、ぜひなっていただきたい。



三島由紀夫を青年期に愛読したそうで、おお、文学青年でもあったということでした。たまに文章があまりにきらきらしく走っているのも、彼の熱さのせいかもしれません。やっぱり東大だったから?



今は自分の家族を持ってお子さんもいるので、10代のころの鬱屈した感じは遠くに置いているのだと思いますが、父親不在、祖母に育てられた自分のことを完璧な人間ではない、と低く見ている様子があって、それが香川照之らしさのひとつでもあるらしい。



ときに暑苦しいほどに感動しすぎで熱い俳優による撮影記、かつ自分記。読ませます。





『猫のあしあと』町田康

ISBN:978-4062143226 講談社 2007年



☆☆☆☆☆



町田康の自宅と仕事場で保護している(元)野良猫たちの話。
1作目の猫エッセイ『猫にかまけて』でもそうだったけど、本当にただの猫好きなおっちゃんである作者の気持ちが炸裂です。愛情が無尽蔵にも思えます。ちなみに、『猫にかまけて』の表紙だけで、私はめろめろでした。



ヘンテコダンスを猫の前でくねくね踊っている町田康を思い浮かべたら、可笑しくてしょうがない(→猫に見せてちょこっと混乱させて、場所を移動してもらおう作戦のひとつ)。
ネタで書いたとは思えないな。たぶん、本当に踊ったんだと思う・・・そんなエピソード。ほかでは昼酒だ、なんだとぶらりな町田康も、猫の前ではかなりの働き者になります。



猫って、すごく何でも分かってそうな顔することもあって、そんな彼らが考えているであろうことを、町田康が文章にしているんですが、これがツボ刺激です。
「なんなの、このおっさん」調のやや高いところから見下ろしてますラインのお言葉の数々に、町田家の猫たちがいかに気高いかが分かるというものです。



それと数枚の写真あり。ちょっと目ヂカラを入れた町田康が棚(・・・に見える)に挟まって、猫とよりそっている写真など、猫バカ、親バカぶりを垣間見ることができそう。



しかも、このエッセイの素晴らしいところは、可愛がりまくって、めろめろで、しもべ状態でありながら、実は猫の小さな尊い命を預かっている立場だという大きな責任をいつも考えているのです。飼い主の鑑!



前作で、大往生のコと小さな子猫を看取った町田康、と奥様(家人、と作者は言う)。今回は、もしかしたら自分たちが良く考えないで良かれと思ってしたことが、大切なコの命を奪ったのではないか、という後悔、反省も綴られていました。もう、涙なしには読めぬ・・・ って、今も思い出すと半泣きになってしまいます。



猫好きにささげます、というかすでに猫に愛をささげたおっさんの独白、なのでした。







2008/02/22

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』ウェンディ・ムーア

ISBN:978-4-309-20476-5  河出書房新社 2007年



Wendy Moore:
The Knife Man,The Extraordinary Life and Times of John Hunter,Father of Modern Surgery (2005) 



☆☆☆☆☆

奇人まみれの英国でも、群を抜いた奇人! ーー『ドリトル先生』や 『ジキル博士とハイド氏』のモデルとも言われる18世紀の「近代外科医学の父」ジョン・ハンター。彼の知られざる生涯を初めて描いた驚嘆の伝記。膨大な標本、世界初の自然史博物館、有名人の手術、ダーウィンより70年も前に
見抜いた進化論......。解説は山形浩生氏ーー「このジョン・ハンターはまぎれもなく、イギリスの誇る畸人の伝統を脈々とうけつぐ人物であり、その影響は医学の世界をはるかに凌駕している......かれの畸人ぶりは群をぬいており、それが証拠にかれは当時、そしてその後の小説などに多くのモデルを提供している。本書を抜群におもしろくしているのは、そうしたかれの畸人的なエピソード群のためであり、そしてそれが現代のぼくたちにつきつける問いかけのためだ」。 Amazon.co.jpより

とてもとても興味深く、面白く、読みやすく。読んでいる間、全く知らなかったことを知る楽しみに満ちてました。何がしかの世界の基礎を作る人って、当時は「行っちゃってる人」ですね。一歩間違えばマッドサイエンティストなジョン・ハンターの生涯です。



科学モノですが、解剖学そのものではなく、ハンターの生きた時代性とハンターの情熱、取り巻く友人や弟子に話題が絞られていたので、専門的すぎなくて素人にこそ伝わる内容だとも言えます。
タイトルの「数奇な」と表紙の胎児の解剖図でインパクトがありますが、内容は猟奇モノじゃありません。



18世紀のイギリス、ロンドン。消毒薬も、麻酔薬もまだない時代の外科医とはー。



瀉血(血を抜く)、吐かせる、浣腸する。古代ギリシャ時代から大して変わらぬ根拠のない治療を行っていたという。ただ患者をいたずらに衰弱させて死を早めるだけの「治療」しかなかったのでした。
また、社会的地位も高いわけでなく、さらに実際に執刀するのを床屋(スウィーニー・トッドみたいな?)にさせたりすることも多かったそう。



それを、膨大な数の死体と患者を相手に、観察して記録し、実験し、そして仮説を立てて実践・・・また観察、を繰り返すという、今なら当たり前の科学的態度で、時代の最先端を駆け抜けた男:ジョン・ハンターの生涯をターニング・ポイントになった発見や事件、出来事ごとに辿ります。



当時はまだ検体制度もない時代であり、かつ肉体をばらばらにされることへの恐怖もあって、外科医は死体をおおっぴらに入手できません。そこで、彼ら外科医は墓場を掘り返したり、病院でなくなった身寄りのない患者をこっそり手に入れたという。



ハンターは、訛りも強く、論文を書くことは苦手だったそう。
墓場荒らしもしたわけですが、それは身体のしくみを正しく学ぶためには、本でなく、実物を見ること、自ら考えることをいつも説いていたから。



このように先進的な考えをもった医学を学びたい人々は情熱的で的確なハンターを慕って集まるように。一方、旧来の医学の伝統や自分の地位に固執する人々からは攻撃対象になりました。味方も敵もたくさんです。



天然痘ワクチンを開発したジェンナーは、ハンターの愛弟子のひとりで、師の姿勢をしっかり受け継ぎ、常識と思われているものに対しても、自分自身の観察と論理的思考をもって取り組んだのでした。



ところで、当時はまだ検体制度もない時代であり、かつ肉体をばらばらにされることへの恐怖もあって、外科医は死体をおおっぴらに入手できません。 そこで、彼ら外科医は墓場を掘り返したり、病院でなくなった身寄りのない患者をこっそり手に入れたといいます。



夜な夜な死体を解剖し、標本をつくり、ガラス瓶にコレクション。コレだけ聞くと非常に恐ろしい話ですが、ハンターは人体、というよりも自然のあらゆることに興味を抱いて「なぜだ?」を問い続けたのでした。



その結果、ダーウィンが『種の起源』を発表する70年ほど前に、人類の祖先はアフリカの黒人であろう、という結論に至り、生物は常に奇形をうむ用意があること、そこから「進化」の概念も確信していたとのこと。すごい観察力と理論。 あまりに進みすぎていた生物、自然界への観察と仮説のかなりの正確さに驚愕しました。



ダーウィンよりも先んじてあの結果に至っただなんて、知らなかった。すでに動物への移植手術も実験していたなんて、さらに驚きです。



イギリス、グラスゴーにあるハンテリアン博物館(http://www.hunterian.gla.ac.uk/)には、ハンターの業績の一部、1万4千点にのぼるすさまじい量の標本、剥製のうち現在状態が良い3千点ほどが保存されているとのこと。



興味あります、見てみたいなぁ(ちょっとコワイですけど)



図版がもう少し多かったら、視覚的にもさらによく理解できたと思います。




2008/02/14

『シネマガールスタイル』おおたうに

ISBN:4789725820 ソニーマガジンズ 2005年



☆☆☆



おおたうにのイラスト、コラムによる好きな映画評・・・いや、映画案内。



ガーズルムービーを扱ってあるうえに、絵もかわいいしー、映画も好きなのが多かった。む、かわいい。好きな作品を取り上げているので、毒はない。石川三千花とか、中野翠の愛とは違う(お二人とも好きですが) カワイイ、ガーリーな1冊。
フランス映画のとこではB.B.ブリジット・バルドーが最高にかわいいということで絶賛されてまして、実は一作品も見たことがないのが悔しい。読んでると観たくなりました。



ウィノナ・ライダーのイラストを見てると、髪を切りたくなっちゃうんだよな。あの美貌があればこそ。











『fragments PLAZA』

ISBN:978-4838717545 マガジンハウス 2007年



1966年オープンのソニー・プラザから2007年に「プラザ」になった記念に、定番を中心に(ソニー)プラザらしいモノたちが掲載。色別になってたりで、とにかくカワイイ1冊。



最近は激しく「ソニプラじゃないと!」というのも少なくなったような気もしますが、でもやっぱり、行くと楽しくてしばらく見てまわっちゃいます。







2008/02/07

『村上春樹にご用心』内田樹

ISBN:978-4903951003 アルテスパブリッシング 2007年



村上春樹(作品)論として読んだなら、☆☆☆☆
村上春樹ラブ☆の大学教授の徒然草、なら☆☆☆



内田樹さんのことは全く知らず、おやおやな私でした。わりに色々活動なさってる方だったんですね。「村上春樹」につられて読んだわけですが、内田さんの熱きハルキストぶりに感化され、また読みたい気分が盛り上がりました。それだけでも、なかなかのやり手ということで。あ、表紙の「文化的雪かきをしてる羊男」だけでも、なかなか!



これだけ世界各地の人に読まれているのに、日本国内での評価が低い・・・。いや、低いっていうか、そもそも文学評論のレベルが低いので、読めてないと仰る。まさにそう! いまだに、軽いとか土の匂いがしない、とかそのレベルですよ。ふん。



ブログに書きおいたものから村上春樹に言及しているものを集めているので、全く大系だってません。その議論、続きをぜひ!と思うものがあっても次がないのでした。でも、つい先を聞きたい、と思わせるゆえ、きっと講義は楽しいだろうと想像。



村上作品においていつも繰り返される「欠如感」についての論、用いた言葉は違ってもそれそれ!と読みながら大きく頷く箇所でした。作品に出てくる言葉でいうなら「喪失感」ってことですね。
何を失っているのか、永遠に失われた/損なわれた・・・僕、がどう生き延びていくのか、いやぁ涙が出そう。私も、あなたも、すでに何かを失っているんです。
そして、失わないとあったことが分からないのであり、分かったときには二度と手に入らないのです。もう失ってますから。



と言うわけで、核心である、「何を」欠如しているのか、については触れていないのが非常に残念。他の著作で触れてるのか気になるので、しばらく内田樹の著作周辺を読んでいこうと思います。





2008/02/01

『ホルモー六景』万城目学

ISBN:978-4-04-873814-9 角川書店 2007年



☆☆☆☆★(4.5)



5点満点でもいいのかも。『鴨川ホルモー』と合わせたら満点。



エンタメ小説を読んで、楽しくて仕方がない気持ちになれるのって最高です。病院の待合室で、にやけながら読みました。毒気のあるサスペンスとかミステリも魅力的ではあるけれど、淡い恋、切ない恋、友達の恋、胸がきゅんとなる6つのお話。



まったく、オニたちが武器を出したり、川べりに上陸したり・・・、想像するだけで笑えます! 『鴨川ホルモー』を読んでいなくても、ある程度は楽しめるでしょう。でも、これは読んでおいてこそ、楽しめます。



凡ちゃんの恋、があるというのでどきどきして読んだ「第二景 ローマ風の休日」は、かわいくて応援しまくりました。司令官としての凡ちゃんをもってすれば、ホルモーやってないときだって、活躍するに違いないと思ってました~



それから「第四景 同志社大学黄竜陣」「第五景 丸の内サミット」となると、いくらでもホルモー世界の話は続けられるわ、と唸る。
京都の景色、歴史があってこそ際立つホルモー、東京ではあまり広がらないかも。でも、同志社大学~が復活したら面白いのに。もう、学生たちは勉強してるヒマはなくなりますね。
「第六景 長持ちの恋」は切ない恋でした。琵琶湖・・・会えてよかったです。




まだホルモー続編が出そうな気がします。500代目たちの活躍、もっと読みたいですもん。