2007/12/24

『ホームレス中学生』田村裕

小説じゃないんだ、って読み始めて気づきました。ポイントになるエピソードごとに素直な気持ちで書いたような文体で、エッセイみたいなつくりでした。



タレント本でしょ~、とバカにして読み始めたら、これが経験してないと書けないわ!というもので。



たとえばリアルで必死すぎる空腹感が、中学生にとっては将来より「空腹」だったんだな、と納得したり。ダンボール食べてみたのか・・・ それはマズイだろう。



小5のときにお母さんを亡くしたことを、中学生になって(だったと思う、数年後に)初めて現実のこととして受け止められたというくだり、田村さんが本当に経験して書いたのねと思う話です。大きなショックを、何年かかけてやっと受け止められたんですね。こうやって文字にして出版することも、気持ちの整理がつけられているってことだろうし。



親戚を頼れなかった事情があったらしいが、とにかくびっくりなのがお友達の家族の活躍だ。状況を聞いて、お金を出し合ってアパートを借りて、生活保護の手続きもして、何て素晴らしい人だ・・・。人情に篤いってすばらしいー。



とにかく田村さんは人に恵まれているのが驚き。本当に困ったとき、ちゃんと誰かに助けてもらっているの。早くに亡くなったお母さんの愛と、本人の素直さの賜物か。人には優しく、と強く思う次第です。
江原さんとかなら、「お母様が守ってくださってますよ」って言うに違いない。



しかしお母さん、とあまりに素直に書くのは恥ずかしいかと思うのですが、いいのでしょうか。
大人なら「母」って書いてほしい。ずーっとお母さんが好き、素晴らしい、偉大だった、と絶賛するのは素敵なことだけど、他人に「お母さん」って言いふらすのは私はいやなんだよー。



ところで、「麒麟」というお笑いの方なんですが、芸してるところは見たことがありません。 この世界には疎い。 





2007/12/22

『裁判官の爆笑お言葉集』長嶺 超輝

爆笑っていうのは違ったのだけど、面白いなぁというのが感想。



あまりに裁判について知らなさ過ぎるんだろうな、とやっと気づいた今日この頃。法律があっても、結局人間が決めることだからズレもあるし、感情的になってしまうことだってあるかもしれない。だったら、機械に判断してもらえばいいわけですから。



自分の考えをあまりに前面に出すわけにもいかず、かといって決まったとおりにいうのもはばかられる、そんな板ばさみから生まれる言葉はドラマだった。



見開き、片方には「お言葉」と事件の概要。もう一方には、作者からのコメント。なかなかサクサク読めて良いです。



裁判員制度もスタートすることだし、こういうあたりから慣れておくのも必要かも。





2007/12/18

『絆のはなし』伊坂幸太郎・斉藤和義

起点は伊坂幸太郎が「斉藤さんが好きだ!」と言いふらしてたこと。それを聞きつけた関係者が伊坂幸太郎の小説に斉藤さんが歌をつくる、というこれぞコラボ!を提案し、実現したあたりの対談。



でも、斉藤和義にラブラブな伊坂幸太郎、まんざらでもなく楽しそうな斉藤さん。男ふたりのめろめろ対談だった。焼けるーっ!



冒頭に二人がお散歩してる写真が何枚かカラーであるんだけど、これがぱっとしないお二人なのがまたいいです。
私は伊坂さんの小説は入院したら読もうリストに入れて取ってあるので、まだ『陽気なギャング~』くらいしか読んないけど、それでもオーラのないお二人には笑いました。素敵すぎ。
せっちゃんもねー、歌えばものすごいセクシーですが痩せたのも相乗効果で心配になる風貌だし。



文庫化されたあたりとか、古書店にあったら買ってもいいなと思いました。かわいらしくてたまらない対談ですからー。









2007/12/12

『有頂天家族』森見登美彦

☆☆☆☆



2007 幻冬舎、ISBN 978-4-344-01384-1



久しぶりに、読み返したいと思う小説だった。登美彦氏の文体がかなりお気に入り。やり取りの言葉が楽しいのって貴重だもの。村上春樹以来かも(比喩にめろめろだった)。



京都を舞台に、偉大な亡父をもつ狸兄弟と、タカラヅカ病に罹患している母狸。主人公は3番目兄弟、矢三郎。・・・化けるときはいつも「腐れ大学生」になっているので、それくらいの年かしらと思いつつ読んでしまったけど、どうなんでしょうか?狸の年齢って。



男兄弟にしては、腕白さが足りないというか、わりに非暴力な兄弟。長男の、しっかり者のくせにココ1番に弱いところとか、兄弟の性格描写がうまい。自分が長女なので矢一郎兄ちゃんに肩入れしてました。クールを装って熱い次男、阿呆に生きてる三男、びびりだけど素直な末っ子。かわいい。



矢三郎は、普段はほけっとしているようでいざという時は踏ん張れる頼れる三男。これがふわふわの小さい狸がやってるのかと思うと、ますます愛らしいです。



反抗期とかあったのか?というくらいのイイコ揃で、それがまた登美彦氏っぽい世界なんでしょう。親への100%の尊敬と愛情、そして兄弟愛。それもファンタジーの一部として受け入れておけば、愛にあふれた世界に多少お尻がむずむずしても受け入れられそう。



父の弟でもある宿敵、夷川早雲、息子の「金閣銀閣」の阿呆兄弟のあほあほぶりも笑えます。狸ということで、すっかり脳内ではジブリの映画になったくらいの活劇として読みました。



がっちりリンクじゃないかもしれないけど、『太陽の塔』に出てくるものとゆるく繋がっているような。あああ、だからまた読みたくなっちゃうんだ。うまいな!



狸や人間を軽蔑してる風のくせに、弁天ちゃんに心うばわれて天狗の威光を地に落とした赤玉先生(如意ヶ嶽薬師坊・・・という立派な名前もある)のダメ男ぶりも、登美彦氏の作品に共通の「素敵な乙女に腑抜けになる」状態。
10年くらいは腑抜けたままかもね。そのうち、しっかりと手を繋いで向き合ってくださいませー。



※最後のページに「赤玉先生の御令息、大英帝国より堂々帰還」、幻冬舎の『パピルス』15号から連載開始だそうです。英国紳士なんだろうか? 赤玉先生、御令息、弁天の戦いが楽しみ。





2007/12/04

『グアテマラの弟』片桐はいり

☆☆☆☆



わたしのマトカ』では大笑いで、腹筋まで痛めてしまった、片桐はいりのエッセイ2作目。



前回はお仕事から派生したフィンランドでの抱腹絶倒の旅エッセイだったが、今回のテーマは家族。中米のグアテマラで結婚し、家族を持って生活の根を下ろした弟さんと、はいりさんからみた片桐家がテーマ。



前もびっくりしたのだけど、はいりさんの目線がとてもオトナなのが素敵。社会人として、とか狭い意味のオトナじゃなくて、人間の器が大きくて、大胆だけど真面目で、でも遊べて、と、奥行きのある素敵な人だと思わせます。



半ば音信不通だった弟と、faxを自らグアテマラに持っていったことをきっかけに連絡をし始め、さらにPCのお陰ですっかりマメに連絡しあうようになったとあって、ネットの普及の良い面だよなぁとしみじみ。お父様の体調が悪くなったときも、姉弟で24時間体制で様子を確認していたとか。



しめっぽくもなく、ほとんど未知の世界に近いグアテマラをいかにも異国らしく書くのでもなく、自分の目で見て感じたことを綴っているのも、良いところでした。





2007/12/01

『秘密の花園』三浦しをん

☆☆☆☆



意外と、真面目な小説だったということで、☆4つ。



傍目には、完璧に自分の世界を築いて高みに生きているような子が、恥じながらも嫉妬心を燃やしたり、自分だけ特別だと思ってたのに、大勢のうちのひとりにしか過ぎなかったと気づいた衝撃とか。
そんな大なり小なりだとしても、自分の高校時代(10代)に経験したような、そしてすっかり忘れていた敏感な感じを思い出させるお話でした。



作者の目線が、振り返るとこんなことあったな、という立ち位置だったので、生々しくなりすぎないものになっているのが、ちょうど良かった。



こそこそうまくやっている子より、わかってるフリで諦観してるフリだけど、実は熱く心が揺れるような、まっすぐな子がいいな。





『ゾラ・一撃・さようなら』森博嗣

Zシリーズとは関係ないようでした。



☆☆.5



ワケありそうで謎ありの美しい女性が、探偵に探しものを依頼。探偵はそれを手に入れることは出来ず、美術品を保管している男は殺される。そして心奪われたその美女は世界的に有名な殺し屋、ゾラ・・・? だった。終わり。



美女にちょっと翻弄されたり、他の裕福な美女からも誘われたり、元妻にも優しくしてもらったり。ハードボイルドっぽいのだけど、そうなると主人公に色気が足りない。犀川先生のほうがよっぽど色気があるかも。



探し物の「天使の演習」、エンジェル・マヌーヴァ(『魔剣天翔』に出てくる)と重なるのかしらということがとても気になる。読み直すかー。簑沢氏も、どっかで読んだと思うので、これも探してみよっかな。



2007/11/26

『B型陳情団』奥田英朗

B型について書いたのかと思い読んでみた。単に、奥田英朗がB型だったのでこういうタイトルになったらしい。もとは、モノ・マガジン掲載の「モノモノしい話」というコラム。



ひねくれた感じが、若いんだなと思わせる。いろいろとんがってて良いです。
伊良部シリーズくらいしか奥田英朗の作品は読んでないけど、彼の文章は冷静さと気合があって好きなほう。



当時の身の回りのことを書いているので、バブルっぽい話とかも多くて時代を感じます。野球に関する話は怒りつつ、まともで拍手。みんなで同じ応援をするのはいやだとか、本当に素晴らしい選手なら外野同士のボールまわしさえも、芸術的な球と捕球の音がする、という話。



全然モノの話も出ないし、ぶつくさ反抗してるキャラなので、モノ・マガジンで連載だったというのが面白いかも。









『ZOKUDAM』森博嗣

Zシリーズの続きかと思って読み始めて、何だか違和感が。この後に『ZOKU』を読み返して違和感の原因は判明。



ロミ・品川、ケン十河、バープ斉藤、揖斐くんと野乃ちゃん。登場人物の名前と何か悪と闘うのね、という設定は同じだけど、ロミ品川とケン十河は、この話で初対面、ってことになっている。だから、続編ではない。



しかも、『ZOKU』ではくだらなすぎる悪事を働くことを目的にしょぼい工作活動をしていた「ZOKU」だったが、こちらではロミやケンたちが正義の味方らしい。Zワールド、というのかZなパラレルワールドというのか。



そして物語は遊園地の地下に(どれだけ広いのやら・・・)作られたロボットZOKUIDAMの秘密基地へ、乗組員となるべく配属されたロミとケンのぼやき、あるいは恋物語、で、シチュエーション・コメディとなっている。『ZOKU』はオチもつけてたので、かなり違うかもしれない。



最後まで闘いが始まる様子はなかったし、話の行き先もあるようなないような。もしもZOKUDAMを作ったら?という想像をしてる雰囲気です。



森博嗣の言葉の選び方とか、屁理屈のこね方が好きなので楽しめた。でも、それに興味がない人にはつまらないかも。



野乃ちゃんにほのかに恋、のケンのオタクっぽさが何とも意外とリアルな雰囲気なのがー。30代としては、ロミ・品川に頑張ってケンを奪ってほしいものだと思いつつ読む。奪えなかったみたいですが。



2007/11/03

『ZOKUDAM』森博嗣



「インヴィジブル・リング」

紅玉の戦士
『翠玉の魔女
灰色の女王



アン・ビショップ/著、原島文世/訳 中央公論新社





インヴィジブル・リングシリーズ全3冊、何となく読んでしまった。3冊も! とてもつまらなくてビックリ仰天だった。人気のあるハーレクイン作家のほうが面白かったかも、と思うくらいにつまらなかった。ヒドイ。自腹で買ったら3.000円するのか。恐ろしい。



登場人物が多いのに、動くのは6名くらいか。危険な旅を続けるメンバーだってのに、全然かまわれてない子どもたちとか、かまわないなら出さなくても良かったくらい。
薄っぺらな人物造型なのに、名前が似てるのもいやだ。ブレイドとブロック・・・最後まで区別できず。



ファンタジー世界の設定は、わりに面白いのに物語と文章があまりにひどかったので、余計にどうしてくれよう!の気分が残る。



『太陽の塔』森見登美彦

ISBN: 978-4101290515  2003.12発行



☆☆☆☆



日本ファンダジーノベル大賞受賞作にして、登美彦氏のデビュー作。



まなみ号、男汁、ええじゃないか・・・筆が進んだらしきところ(語り口がのってるとこ)と、とても内省的なところがいい具合だった。
森見登美彦のこの線の語りは好き、楽しみました。根詰めてツメツメになっていない勢いが残っていて、良いよい。



我々の日常の九〇パーセントは、頭の中で起こっている」。名言。その90%を文字にするとこうなるの。



水尾さん研究と称したストーカー(本人は否定)のような行為が物語の主かと思ったらちががった。異性と交際すること、クリスマスを恋人と過ごすこと、素敵な誰かを好きだったこと、共有できたかもしれないこと、決っして共有できなかったこと、そうして過ぎた日のこと、を何度も何度も思い返して自分を納得させている話なんだと思う。



失恋してしょげて、でもまだほんわか好きで、まだそんな自分をどう落ち着かせたらいいのか分からないみたい。
水尾さんをめぐって、常に<私>をぐるぐるとまわる。四畳半を男汁でいっぱいにしながらも、自分を肯定する姿勢がすがすがしくもあり。ほとんど自分と重なりそうで、懐かしくもあり。



まだまだ先だろうけれども、きっと誰かと深く見つめ合うような物語も書いてくれると期待してます。





2007/10/21

『怖い絵』中野京子

☆☆☆☆



2007/07 朝日出版社 ISBN: 978-4255003993



絵画の読解をしているだけの本なのに、「怖い絵」という切り口でまとめたのが面白い。ともかくタイトルと表紙の絵にぎょっとして、思わず手に取ったという感じ。



凄惨なものを描いたものはもちろんあるけれど。一見幸せそうなおだやかな絵も、描かれた時代とともに見ると、意外な恐怖を背負っていたり。
描いた作者の思惑が怖かったり・・・ 美しいだけだと思った絵でも、「怖い」をものさしにすると、また違った見方が出てくるものだなぁと感心します。



惜しいのが、解説の対象になっている「絵」の扱い! 見開きで一枚の絵を掲載しているので、背表紙がわの糊付けしてる部分がよく見えない~っ
見えない部分が出来ちゃうくらいなら、小さくしてもいいから1ぺージに収めてほしかったなぁ





2007/10/20

『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』北尾トロ

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか 北尾トロ
ISBN:978-4163675602



裁判マニアの軽めレポ。わりに正義感のある目線なのが意外だった。人情系裁判官や適当系?裁判官、泣き落とし被告人・・・社会の縮図だろうけど、見たいようで見たくない世界だな。



2007/09/15

『夜にそびえる不安の塔』井形慶子

☆☆☆☆

占い、スピリチュアブームの中で筆者は霊感と未来を読む力の解明にのりだす。5年にわたる潜入取材の間に、次々に起こる不思議な出来事!
人間の運命を操るものの正体とは? 
息もつかせぬ迫力で綴る渾身のフィクション!
ついに解明したスピリチュアル世界の真実!! (帯より)

2006年 講談社 ISBN 4-06-213599-X



2001年くらいから本名、仕事を(占いの取材をしていること)かくして、3名の女性霊能者(未来を見る力があるという人物、見ず知らずの人間の内面が読めるという人物)と電話相談を始める。



最初はまるで信じてはいなかった著者。だが仕事(出版社経営)が忙しくなり、また行き詰っていくなかで相談内容も濃く、深くなっていく。



仕事が出来ない幹部の悩みを霊能者に教えてもらい、そのようにアドバイスしてみるとすっかり持ち直すとか。もうすぐ辞めるつもり、といわれればその通りになるとか。
この仕事を依頼した他社の編集者が、仕事を頼んだ直後から失踪、連絡が取れなくなっていたのも、不安を呼ぶ材料だった。



この編集者の居所、生死についてのくだりが1番追い詰められていく最終局面。表題にある「不安の塔」の窓であり、見通す目が、著者をどこからでも見ているビジュアルに襲われるようになる。



本当にあるのか?という問題に、答えるためのものではない。しかし井形さんにとっては、この力は存在した。ついに毎日、彼女たちに連絡し相談しなければやっていけない中毒者のような状態に陥っていたからだ。



運命に勝つ、というのは予見されたことを起こらないように立ち回ることのようだったが、運命が決まっているならその考えは当たっているのか・・・ 



もしも未来や人の内面を見る力があるとして、それを知ることは普通の人が立ち入ってはいけない領域、そのことが1番心に残る。著者はそうは書いてないけど。未来なんて分からないほうがシアワセだし、他人の心を覗くなんてしちゃいけないことじゃないの?



他人に「あの人は本当に私のことを愛しているのか?」って聞いて、どうするんだろう?「はい」でも「いいえ」でも、だから何だ、と思う。弱いのか、図々しいのか。両方なのか?



著者の仕事や心身がどんどん追い詰められていくにつれ、相談を受けてる女性たちへの依存が深まっていく過程が、たたみかけるように書かれているので、とても緊迫感があった。読み物として面白い。





2007/09/08

『きみはポラリス』三浦しをん

☆☆☆☆



『世間の注目も原稿の依頼も「恋愛」のことばかり。なら、とことん書いてみようじゃないの! ということで生まれた ただならぬ「恋愛短篇集」』(オビより)



エッセイは本当に大好きでよく読むのだけど、作品は好きなような、普通くらい?なような。今回の恋愛短篇集、は失礼だけど意外ととてもほっこりできて良かった。



いろんな関係、いろんな立場の、いろんな愛、恋、愛情。結婚してる人とか、結婚を考えている人がわりと多いのは、しをんがお年頃だからか?



この人たちはこうです、とか、○○とは●●である、と言い切ってしまう型にはめることが嫌なんだろうなと思う。入りそうで入らない、それが生きてるってことだ。
どこかにたどり着くかも、あるいはどこにも着けないかも。だけど、日々は過ぎて行って人は(人間関係は)変化しつづけていく・・・そういう揺れている人たちを書くのが好きなのかなと思う。



それから、誰も他人を自分のものにできないっていう前提があって、それは正しいよなぁと思う。自分のものにしようだなんていう不埒者も登場してこないし。
他人と暮らすことを冷静に見てるものだなぁと感心だ。ねちねちしてないのもヨシ!(江国香織とかはだから苦手・・・ 愛が重くて逃げたくなる)



とことん書いたかといえば、まだまだ! まだ、キレイに書いてると思う。ねちねちが嫌と言いつつ、でも奥の奥までいってさらりと書けたらいいのに。人間の観察はすごくいいと思うので、これからも精進していただきたい。



風が強く吹いている』でも、とにかく襷を渡すこと、全力を尽くすこと、ゴールすることに燃えに燃えているのが素敵だった。結果は結果としてついてきたわけだけど、走れてよかったよ!と素直に思えたからー。





2007/09/02

『エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集』長嶋有

☆☆☆★



表題作は、エロマンガ島(バヌアツ共和国)に行って、エロマンガを読む。というゲーム雑誌の企画のために日本を飛び立った三人の男たちの話。タイトルはインパクトがあるけど、物語はとてもまっとうなまとまりが。もう少し文章にリズムがほしいけど、これがゆるゆる企画に合っているのかも。



異色って書いてあるので、これで長嶋有がいいとか、好みじゃないとかいいにくいけど、明るそうでちょっと温かいような『エロマンガ島の三人』とかより、乾いた話『ケージ、アンプル、箱』みたいなほうが好きだった。



表紙イラスト、挿絵は大好きなフジモトマサル。飾っておきたい表紙ー。





2007/08/31

『ウルチモ・トルッコ犯人はあなただ!』深水黎一郎

☆☆



あーあーっ、これはトリックだけでメフィスト賞だったんだと思うけれど、肝心のトリックに全然ときめかなかった。残念。そして偉そうな文体がイヤー。



SF(とか超能力)でトリックにするときは、誰がどう見ても成立してるようにしてくれなくちゃ。作者だけが「当然可能だ」って言っても説得力ないし! クリスティの『アクロイド殺し』以上にがっくり。アクロイドはまだ騙された!と驚ける余裕があったけれども、これは読んでる途中でトリックの候補のひとつになったくらい想像可能な範囲のトリックだった・・・ううー。





『十月はハロウィーンの月』ジョン・アップダイク

☆☆☆☆☆



絵本、絵はナンシー・エクホーム・バーカート。『白雪姫』とかでもとてもキレイな絵を描いていたので読んでみた。



季節ごとの空の色、風の匂い、食べ物の味、気持ちの変化・・・ 子ども時代の楽しい思い出が12ヶ月になって登場、春のヨロコビ、秋の何だかさみしい気持ち、すべて入っている。





『風信子の家』篠田真由美

☆☆★





2007/08/10

『鹿男あをによし』万城目学

☆☆☆☆



デビュー作『鴨川ホルモー』では文章のくみたてよりも、物語のオモシロさでどんどん読み進んだ記憶があるのだけれど、2作目の『鹿男あをによし』では、すっかり文章がすっきりして、物語を上からきちんと見下ろせているようなオトナな筆に。手練れてきたの? すごい成長した感じ。



大学の狭い世界で身動きがとれなくなった27歳、男。東京から奈良の女子高へ臨時教員としてリフレッシュと言う名の小さな左遷・・・・?



そして彼は選ばれる。春日大社の美しい鹿の運び屋に。とても大事な「目」を狐の運び屋から預かって、鹿に渡すのだ。それを期限内に渡さねば、しっぽを捕まえてるナマズの押さえが緩み、とんでもないことが起こってしまうから。



読み終わるのが残念と思うくらい楽しく読んだ。鹿島大明神の地元関東からやってきた男が、大事な役目を負わされるとか、
舞台になる高校の教師たちの名前が都(長岡、藤岡、大津・・・)から取ってるとか、
主人公がまさに『坊っちゃん』状態で、山嵐のようなお友達もいるし、マドンナもいるし、赤シャツっぽいのもいるとか、
大事な「目」の正体がなかなかわからなくてじりじりしていたら、実は卑弥呼まで関係してるとか、
くすぐられるアイテムが散りばめられていて、たまらんっ



出てくるものすべてに意図があって、ラスト付近でぱちんぱちんとうまくピースが嵌って、絵がどんどん出来てくるあたりも、上手くなったな!と驚く。



私も運び屋になるなら、春日大社の神鹿にご指名いただきたい。あとは鼠か狐。鹿が一番キレイだもん。話するにも目線が近いし。



さらに加わるのが、女子高校の対抗戦。しかも剣道! 和ですね。
高校生のとんがった感じ、一生懸命なところがさわやかに書かれている。わー、青春☆



自分からと、デジタル機器を通してしるしをつけられた姿が見えるってのも面白かった。鏡に映るのは「鹿男」首から上がまさに鹿、だそうだ。イヤだろうよ・・・
フィルムには写らないのに、デジカメには写ってしまうのは機械の発達に神たちがついて来れてないから、って。へりくつっぽいけど、人間ぽい神でよろしいこと。



ただ運ぶだけかと思ったら、日本の存続のための大事な大事な任務だったというのがびっくりのスケールでした。 でもこの場合の日本、には北海道は入ってなさそうです。奥州までだろうなぁ



主人公がすっかりひと皮むけて終わるところなど、きれいにまとめられました。正攻法。



奈良の鹿だけがおじぎしてエサをねだるのは、この鹿ちゃんが教えたらしい。奈良に行ったら、気をつけてみてみよう。





『あやつられ文楽鑑賞』三浦しをん

☆☆☆☆



ポプラビーチの連載も読んでいたけど、本になったのでゆっくり読みなおしました。



文楽の面白さ、というか演劇的効果について何カ所かで指摘してて、そのいくつかは私も同じように面白い特徴だと思うところでもありました。



生身の人間に一番できないことが、出来る。=完全な死。死んだフリじゃなくて、人形から魂というか命が失われたところってかなりの衝撃です。あ、もう完全に死んだ、表現できてしまう。



あと、感情が役者がやるよりもぎゅうぎゅうに凝縮されて表出してる気がします。



しをん節、ともいうべき文体の楽しさで笑いつつも、文楽の世界を垣間見ることができる本。



ただし、「文楽入門」のガイドブック的な紹介本ではなくて、あくまでも三浦しをんが好きな文楽について書いてるということで。その中で役に立つ知識もちらほら、という程度でしょうか。



文楽から歌舞伎でも上演されたものを比較するために歌舞伎も見たり、ついに床本にあたるところは、面白いだろうなと思います。
歌舞伎的表現と文楽的表現が交錯してるところを見つけたり、役者ならではの表現も見たり。



出来れば文楽の舞台写真がカラーであれば気分がもっと盛り上がるかな。



ああ、文楽見に行きたい!





2007/07/30

『心にナイフをしのばせて』奥野修司

☆☆☆☆

1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。入学して間もない男子生徒が、
同級生に首を切り落とされ、殺害されたのだ。「28年前の酒鬼薔薇事件」である。
10年に及ぶ取材の結果、著者は驚くべき事実を発掘する。殺された少年の母は、
事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失って
いた。そして犯人はその後、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。
これまでの少年犯罪ルポに一線を画する、新大宅賞作家の衝撃ノンフィクション。

何とも言いようのない話で、読了してもやりきれない気分がもやもやと残る。少年法は被害者の救済には無関心で、加害少年の更生に国費を費やしていて・・・・ 



弁護士になるには、前科があっても大丈夫なのか? 大丈夫だった。
さらに少年のうちは前歴というものにはなるけど、前科にはならないという。人を殺しても、犯罪人の更生が一番大事だということだ。国が罪なんかなかったよね、と教育もして世に出してくれるということ。



本の大半は、被害者一家(父親は他界している)の主に被害者の妹、そして母親への取材がほとんど。
最終的には加害者の現在をつきとめて取材を申し込んだが、当然応答はなし。



被害者の母親が、犯人と向き合わなければ人生にけりがつかない、と電話をするところは、本当にヒドイことになっていて、むかむかとしてくる。
現在は名士の扱いをされている加害者は弁護士となり、社会的地位も、財産もあるというのに、賠償金を1円たりとも(裁判所の決定だったのに!弁護士としても失格だろう)支払っていないことを母親が言うと、「なんだ金がほしいのか」と言ったとある。そしてそれは済んだ過去のことだ、と言ったそう。



ずーっと、ずっと苦しんできて、どうにかけりをつけたいと思えるまでになったところに、この言葉。



・・・・地獄の炎に焼かれるがいい。



日本の少年法は、公平さが欠けているのだなと恐ろしくなる。殺人の罪を背負って、更生し、かつ罪をつぐなう人生を送ることは。罪をなかったことにして、まっさらになって社会で暮らすことなく。



2007/07/28

『面白くなければカッコよくない』中谷彰宏・いのうえひでのり

劇団☆新感線のいのうえひでのりさんさ、というので読んでみた。



☆☆



中谷彰宏の本は読んだことがなかったのだけれど・・・ 対談なのかと思ったらちょっと違った。
対談したことを、「中谷彰宏」視点で、彼が本を書いてます。つまんない。



劇団、演出についていのうえひでのりが話していることは、ふむふむと面白く読めたけど、いちいち「~ということなのだ」とかって、中谷が勝手にまとめちゃうのが、ヒドイ!



勝手に分かったことにして、中谷流にして書くなんて。対談なら対談のままでよかったのにな。



古田新太をひたすら褒めるいのうえひでのり、というのが分かっただけでもいいか。





2007/07/02

『【新版】走れメロス』森見登美彦

登美彦氏の著作。名作をその作品が持っている勢いとか、世界を取り込んで登美彦氏風に書いてみました、というもの。もとになっているものは、『百物語』以外は一度は読んでいる(でもかなり忘れてて、雰囲気は覚えているくらい)



原作を越えるものではないのだけど・・・



(※下敷きになっている作品はwebで読める。
→青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/



『山月記』(原作:中島敦作)
斉藤秀太郎、という人物設定が面白かった。いつも未完の超大作(小説)をひたすら書いて、世の中を斜めに見るわりに、友人もいるらしい。李微ほど、世間を僻んだりしてなさそうだったけど、京都の山に入っていってしまった。



『藪の中』(芥川龍之介)
真相は藪の中、というほど薮の中には入れていなかった。屈折した男の感情を書くのはうまいわ。これはわりと同情できない男のじめじめした話。



『走れメロス』(太宰治)
楽しく読んだ。
もともとがメロスの発する、友への思い、疾走するメロスの勢いが躍動する文章なので、登美彦氏の持ち味と合って、ピンクのブリーフ1枚で踊りまくる姿とあいまてって、愉快!
いいなぁ ばかな男の友情。



私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。(『走れメロス』太宰治 から)



『桜の森の満開の下』(坂口安吾)
山賊が美しい女を奪い、その女が次々にほしがる「首」を都の屋敷に運ぶが、首を取ることにも飽きて、何もかもに飽きてしまって、山に帰ろうと・・・ という話だったと。



登美彦氏は、小説家志望の男が桜並木の下で出会う美しい女から、作品のインスピレーションを与えてもらい、成功に成功を収め、京都から東京へ行く・・・になっている。書いても書いても、同じものを書いているような気がして、書くことが素敵じゃなくなっていく空しさが積もっていくお話。怖くないけど、作家って自分のなかから何かを絞り出すもののはずだから、誰かに頼って書くのは、空っぽになるに決まっているわ。



何となく。頑張れ登美彦氏!



『百物語』(森鴎外)
関西では有名な劇団の主催者「鹿島さん」(脚本、演出もする)が主催する「百物語」の会に、友人に誘われて参加する「森見君」。
座敷童のような、「鹿島さん」の存在が、噂とか思い込み、で作り上げられたものなのか? それとも、妖怪なのか?? どっちつかずの存在、うっすら怖い。





ISBN13:978-4-396-63279-3  \1400 祥伝社 2007.3





2007/06/17

『見仏記』いとうせいこう みうらじゅん

ISBN:4-12-002239-0 1993 中央公論社



「海外編」が面白かったので、最初の回から読み始めた。



京都、奈良、東北、九州のブツを見て歩く二人の初めての旅。



文章のほとんどはいとうせいこう、イラストがみうらじゅん(以後MJ)なので、これはいとうせいこうのモノサシなのだけど。仏像への目線は、非常に素人。一番面白かったのが、二人の関係がまだ初々しい感じだったことー!



お互いに好ましいと思っているけど、とりあえず、いとうせいこうはまだ、MJを観察中って感じ。旅の最後に握手して別れたっていうのが、なぜか泣けるー。じーん。



九州は大陸から新しいものが押し寄せるところで、交通の要所。でもって、東北は京都あたりの仏像を模写した仏師が記憶にたよって北国でつくったから、パースが崩れているとか。アテルイとのかかわりがあるのでは、という黒石寺の薬師如来についての考察も、歴史学者じゃなく、見たまま、感じたままに書いているのが面白いところだ。



仏像への思い入れがまだ、花開いたばかりの1作目だった。そういえば、京都の「三十三間堂」見に行ったことがなかった、と思い出す。行って見たい。



2007/06/05

『見仏記 海外編』いとうせいこう みうらじゅん

ISBN:4-04-883510-6



仏教伝来逆ルートツアー敢行! 韓国→タイ→中国→インド



何となく読んだ『見仏記』だったけど、これは素晴らしい仏像めぐり記。



二人が勝手に語り合う仏教伝来にまつわる変化、仏像のカタチについての考察が、学者の言葉じゃなく(この人たちなら、学者っぽく言おうとすれば出来そう。大嫌いだろうけど)普通のひとの視点から、ああでもない、こうでもない、と言い合うところ。素晴らしかった。



しかも、先々で羨ましいくらいに思いやりと友情を見せる二人なのだった。おじさん二人が・・・巨乳だ、巨根だと言うわりに男くさくない二人がまた、面白いし。



あと、仏教思想についてみるのではなく、あくまでも、「仏像」。くどいようだけど、その造型にほとんどの気合を注ぎ込んでいるのも、天晴れな態度。



いいなぁ。広隆寺の弥勒菩薩のたおやかさ、おだやかさとか、興福寺の阿修羅像のりりしい表情とか、信仰心からじゃなく、ほとんどアイドルを見る眼差しだったけど、この本を読むと、それもひとつの楽しみ方なんですね!と自信がつく。四天王とか、十二神将なんか、もう戦隊モノだし。



ふざけてるようで、マジメに「仏=ブツ」を見て歩く姿に感動、ちゃんとシリーズの最初から読もうと思う。





2007/05/24

『知ることより考えること』池田晶子

ISBN : 4-10-400108-2



☆☆☆



日常の言葉で哲学を語る哲学者ということだが、短いコラムのなかでは「言い切り」型が多くて、続けてよむと面白味がないうえに、イライラさえ感じてしまう。短い文って難しい。



論調が硬いというか・・・青年の主張のよう。すべてこの世界は、自分のなかにしかない、とか、花が咲くのも自分が生きて存在していることも神秘ではないか、というのとか、そうだよねと思うのに、他人を跳ねのけるような物言いをするのが、好きじゃなかった。



あと、彼女の実体験から生まれた考えなのだろうけれども、あまりにコラムの字数制約があって、全然そのあたりが書かれていないのも、つまらない一因だと推測されます。



本当の哲学は、あたまじゃなく、全身、五感、すべてから生まれるものでしょう。