2008/03/22

『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹

ISBN:978-4163695808 文藝春秋 2007年



☆☆☆☆☆



墓碑には「少なくとも最後まで歩かなかった」村上春樹



「走る」ことを軸として、走り始めたころから現在までの作家としての気持ちのありよう、姿勢をからめながら、近すぎず離れすぎず自分自身について見つめています。



エッセイや、インタビューなどで表現してはいるけれど、積極的に作家としての自分について自分がどう考えているのかを、これほどたくさん書いたものはなかったと思います。



ハルキに対して根性などという言葉があまりに似合わなくて、もっと別の言い方はないかと考えてみました。自分に妥協するのがいやなんでしょうか? こつこつ、とか好きですよね。こつこつ。



不健康な精神も健康な肉体に宿るそうです。不健康な精神に耐える強い肉体で臨んでおられるようですね。長生きして、ぐいぐい井戸掘りができると良い・・・のかな。



18 ’till i die(死ぬまで18才)号」でカーブのある坂を下りながら、恐怖も感じているなんて、そうか怖いけど、バイクに乗っているんだなぁと感心。そして、大怪我しませんように、と本に向かって祈る。長生きしてほしいので。できれば私より。



それから、ゴールで待っている奥様がかけてくれる温かい言葉にじんわりしましたヨ。クールを目指してカッコつけたり冗談を言ってるハルキの、殻の中がちょこっとだけ見えたようで。



走ることに限らず、社会や物事に対してどういう態度で向き合うのかを、村上春樹の物語やエッセイから学んだなぁと思う。
学生のころ、あんなに毎日のように読んでたのに泣きたくなるような気持ちは起こらなかったのに! いまは切なくて大変。このエッセイでも、じーんとして胸が熱くなりましてよ。





2008/03/20

『狼少年のパラドクス』内田樹

ISBN:4023303771  朝日新聞社出版局 2007年



☆☆☆



学校教育、とりわけ大学のあり方について論じたもの。巻末には文部科学省の官僚とのやりとりも記載され、行動派な内田先生が見えます。



他の著作でも書いている路線で、テーマが教育再生となっているもの。先生世代の目から見たら今の教育現場はこうなんだろうけど、こうなると実際の学生がどう見ているのかも聞いてみたくなりました。団塊ジュニアのはしくれとして聞いてみたいなぁ
ゆとり教育世代の子どもたちはどう思ってるのかとかー、分数の計算ができない大学生とか(それでも大学生になれる)。



ところで、この本の本筋には関係してない余談部分で、大学のゼミで軽くクチにした「フェミニズム・・・」に対して、学生たちが「フェミニズム」を聞いたことがないと言ったというところが、やけに衝撃的でした。
フェミニズムって学校で習うわけじゃないけど耳にする言葉じゃないのか。そうかー、フェミコードって言葉も通じないんですね。
たぶん私の世代はフェミニズムっぽいことの叫びの最後にひっかかった世代だと思うのですが(女性も社会進出、とかそういうキャンペーンの余韻も)、激しく世代間ギャップを感じるエピソードでした。



そんな学生たちのため、そして学ぶ場の将来のため、自分のため、内田先生の奮闘が語られています。



あと、表紙がヘンで損してます。容量としては厚めだけど新書っぽい雰囲気にしておけばいいのに。





2008/03/10

『ラッシュライフ』伊坂幸太郎

ISBN:4-10-125022-7 新潮社 (2002年刊を、2005年文庫化にあたり改稿)



☆☆☆☆



作家を気に入ると、たいていは出版順(執筆順)に読む。ので、『オーデュポンの祈り』につづいて。



処女作から、2作目までの間に何があったの? めきめきと腕を上げましたね!という感激いっぱいの素敵に切なく、エゴが渦巻く、素晴らしい作品でした。



ちょっとした不思議、が日常にいつのまにか「ある」感じ、がいつの間にかのせられたなぁという感じで、気持ちよかった。意外と腹黒いのに、希望はちゃんとどこかに隠されているあたりも、読後感が良い点です。



ミステリでは、「新本格」とかいわれている方面を好むので、ラストの謎解きにはさほどココロ惹かれないものの、登場人物たちの普通っぽさとか、日常と、超能力の組み合わせとか、意地の悪さ加減が、読み終わっても、また読み返したくなってしまう一因か。



1日の出来事と思って読みすすめると、最後に数日間の出来事であったことが明かされます。このへんが、やや説明調に感じました。



お、やはり黒澤さんは飛んでいったのか!?って、あれ、時間も越えたのか・・・?? とか、そのあたりも確かめたくなって読み返したい。



リストラおじさんの悔しさ、かなり感情移入してました。撃っちゃえ!とか。いけないことだけど、脳内では撃ちまくりますよ。あんな子ども。老犬を手放さなかったのも、そうありたい姿をまっとうしてくれて、素敵なキャラだったな。





2008/03/05

『下流志向 学ばない子どもたち働かない若者たち』内田樹

ISBN:978-4-06-213827-7 講談社 2007年



☆☆☆



2005年に行った講演をもとに書き起こしたもの。現代の子ども、若者たちの学習意欲が低い、やる気の低下、わからないことを放置すること、ニート、などについて語っている。



「なぜか?」にコレだ!というひとつの回答があるわけではないけど、こういう見方があると考えさせてくれるヒントになりました。



全身を使ってだるそうにしている学生を見て、つい授業を聞いてしまうことを一生懸命我慢して、拒否しているのには、逆に相当の意思がなければできないのではないか、という切り口は新鮮。そうとも言える。
だらだらと45分間を過ごすより、つい教師の話を聞いちゃったほうが楽じゃないのか?という論理です。



自分のまわりの学力低下は結果として大学入試のレベルを下げることになるなら、(無意識かもしれないけど)歓迎しているのかもしれない、と。団塊ジュニアにはありえない考え方だ。何だか、世代間ギャップを激しく感じる話でした。



小学校に入ったばかりの子が「それは何の役に立つのか?」と教師にたずね、絶句してしまう、というのも面白い。そうそう、高校生のころは「数学なんて役に立つのか?」って思ってたな・・・



内田先生によれば、まず尋ねている小学生は、自分が経験し、あるいは想像できる範囲でしか「役に立つ」を把握できない。けれど、教育の成果というのは学び終えて振り返ってはじめて見えてくるものであって、学ぶ前のモノには何であるか、は決して理解できないものである、という。



確かに! ふふ、それに、役に立たないものこそ高尚だという話も(私のような国文科卒の大義名分。役に立たないって素敵!) 
考えることとは何か?を考える、数学を学ぶとは何を解明しようとしている作業なのか? 経済とは私にとって何か?



経済目線で、人間関係も自分も捉えている。という。お金を持っていれば偉いし、なければ敗者であり。弱き者は、市場から去り、孤独に死ぬしかないのか・・・?



自己責任、とは若く元気な者ならば無理なくできることであろう。しかし、人は誰でも年をとるし、怪我もするし、病気もする。100%じゃなくなって、それをすべて個人で引き受ける社会が成熟した社会と言えるのだろうか? 体力がある者が率先して、助けるべきではないのか?



自分がまだ若い、と思って読むとズキっと来ます。



 



『悶絶スパイラル』三浦しをん

ISBN:978-4-7783-1102-5  太田出版 2008年



☆☆☆



今は開店休業中になっている、ボイルドエッグズに連載してた「しをんのしおり」をまとめたもの。連載したものはすでに↑掲載時に読んでいたので、新鮮味は感じられないけど。



でも、いくつかの話題は、何度読んでも笑いとにやけが止まらない~



特に好きなのが『メゾン・ド・ヒミコ』のオダジョについて。もはや「名言」の域に達していると思うのが、「シャツがイン!



これを連載時に読んだときは、すぐにオダジョファンにメールしました。
まさに、そうそう!「シャツがイン!
これ以上、何をいうべきか?!ってくらいに、この映画をあらわした名言でした・・・
※オタジョのファンにとっての、と但し書きは必要ですが。



あとは、お仕事が忙しくなってきた時期なのでお疲れ発言が多い。のと、意外と感服してしまう妄想が控え目です。オタク妄想は、がっつり爆発されてくれると読み応えがありますね。



最近の日常は、「ビロウな話で恐縮です」ブログで読めます。





2008/03/03

『人のセックスを笑うな』山崎ナオコーラ

ISBN:4-309-016847 河出書房新社 2004年



☆☆



映画の原作も読んでみよう~、ということで読んだ。



何だか読むほどに腹が立ってくる小説だった。



この原作からよく作ったなぁ、の殿堂入り。
原作からは想像もできない素晴らしい脚本、映画作品になってますね、というランキング。不動の一位は『耳をすませば』宮崎駿監督で、暫定2位決定。



ミステリを除いては、文学賞を基準に本を読んだことはないのだが、これで「文藝賞」というので、驚く。賞ってあまり意味ないよな。



ダメダメな男の子の話を、ずっとダメダメなまま、最後も一ミリも移動してないダメっぷりのまま。それを評価したというなら、納得します。選評見てないので、何を評価されたのかサッパリ分かりませんでした。
う、ダメダメなままなのを「すばらしいダメの表現だ」と評価したのでしょう。



19歳の主人公「みるめ」と、39歳の「ユリちゃん(夫あり)」の、どこにも行かない、ただまったりと危機感もあまりなく、くっついて、とりあえずオトナにならないでいたいなぁ・・・と一緒に羊水みたいなぬるま湯のなかで、まどろんでいる。



「みるめ」は就職活動もしないし、学校で学ぶことはないと家業を継いで稼いでいる「えんちゃん」から可愛く好きと告白されても、「ユリちゃん」とのぬるい関係を選ぶ。
「ユリちゃん」は家事をしない(鍋は作れる)、ボサボサの格好で、色気を出す気はない感じ。



後半、「ユリちゃん」が離れていった。彼女は温かいママのおなかから外にでてみようとします。ただし、お料理も生活も面倒みてくれている「猪熊さん」付きなので、その気になっただけでしたけど。



22歳の「みるめ」が就活をしようと思っている、と友人に言うところがラスト。ということで、彼も遅れて社会への小さな一歩を、ママ(ユリちゃん)にさようならされて、やっと気づいたらしい。



そうかい、そうかい、オトナにならなきゃいけなくなったんだな、頑張ってくれ・・・