2011/08/21

『エンター・ザ・ボイド』

エンター・ザ・ボイド Enter the Void 2009年



監督/ギャスパー・ノエ
ナサニエル・ブラウン、パス・デ・ラ・ウエルタ、シリル・ロイ、オリー・アレクサンデル



★★★



TOKYOに住む外国人兄妹、兄は薬の売人でジャンキー、妹はストリッパー。ある日、売買中に警察に踏み込まれ、銃で撃たれた兄オスカーの魂は、自分の過去を断続的に思い出しながら、何かを求めてネオンがどきついTOKYOの街を彷徨っていく・・・



自宅のDVDじゃなく、映画館で見たら寝てたかも。魂だけとなったオスカー自身は、何も語らず。映像はオスカーが見ているだろうものを、同じ目線で映していく。この長さが、オスカーの未練の強さなのだろうか、うう、早く未練を断ち切ってくれ!と願いながらラスト30分を耐えました。



カメラがスピードに変化をつけながら、縦横無尽に動くので、すごく目が疲れます。気分も悪くなりました。あたしはもっと素直に死にたいよー。



映像は、刺激的。死ぬ前のトリップ中の映像も、面白い。音や光がゆがんで、強調されて、時間の流れが少しヘンで。
死んでからは、徐々に命ある世界を彷徨うスピードが速くなり、過去の記憶もどんどん入り乱れてくる。どんどん、未練を残したものが何かを突き詰めていくような感じでした。



ストーリーは、素直なもので、幼い頃に両親を事故で亡くした兄妹、兄は死んでからも、幼い頃の約束=ずっと一緒にいる、を手放せずに浮遊していく様を描く。最後は、ラブホテルでセックス中の妹の命の源に溶け込んで、生まれ変わった・・・らしい。



死の彷徨は、チベット仏教の「死者の書」を下敷きにしているのですが、輪廻ってそういうイメージなのか?と不思議です。生まれ変わり先を自分で選べるのかー。



妹の子宮に飛び込んで、生まれ変わるんですよ。しかも、わりと妹と交わって、というイメージがありまして(ペニスの先まで映してくれて、ファンタジーとリアルさの按配が面白い人だな・・・と感心。ギャスパー・ノエ。他の作品も見たくなりました)
妹へのものすごい執着で、これじゃいつまで立っても解脱できそうもなかったですよ・・・。母親の乳房への憧れも描かれるし、胎内回帰願望なんでしょうか。



薬にはまってるときの映像と、魂になってからの映像がとても近いので、トリップ中の目的って全て完璧だったママのお腹に戻る夢を見たいのかもね。



セックスと薬のことが大きく宣伝に使われてますけれど、なかなか純情な男子の願望だなぁと思いました。



2011/08/14

『ハイ・フィデリティ』

ハイ・フィデリティ High Fidelity 2000年



監督/スティーブン・フリアーズ
ジョン・キューザック、ジャック・ブラック、イーベン・ヤイレ、リサ・ボネット、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ティム・ロビンス



★★★★



はー、おもしろかった。ニック・ホーンビィ原作のロックオタク男の物語。同棲してた彼女が出て行ったことで、過去のヒドイ恋愛を音楽と共に思い出していく。
恋愛モノというよりは、ロック愛、音楽愛に生きるダメっぽい男が彼女を取り戻すまでのお話。



私はロック史にうとく、語られる音楽についてのイメージもないので、深いオタク話の面ではツボに来ないのだけど、それでもある世界について語ってしまう人たちの、凄さとバカさについては分かる。深く愛してしまったので、それが人生になっている感じも。



さて、ジョン・キューザックのダサい格好を見ながら、か、かわいい・・と思う自分が恐ろしかった。守備範囲広がったのか。



ジャック・ブラックは安定感抜群の凶暴さと可愛らしさを発揮していて、満点です。
もともとはイギリス人の話なので、セリフの感じはイギリス人ぽい屁理屈や斜めな態度があるものの、ジャック・ブラックのキュートな演技で、鼻につかなくなってます。舞台はシカゴになっていて、シカゴの風景もいい感じ。



ラストのジャック・ブラックが歌う場面、美味しいトコ持って行ってくれちゃって! いい声~



『ヘアー』

ヘアー HAIR 1979年



監督/ミロス・フォアマン
ジョン・サヴェージ、トリート・ウィリアムズ、ビヴァリー・ダンジェロ



★★★★



好き嫌いで言えば、好きじゃない映画になるのか・・・。
60年代のヒッピー文化が良く分かる、という点で4つ★。出演者、ストーリーについては、ふん、若者め・・・という印象で、好みません。



2011年に30代の私が見ると、この当時のヒッピーはいま何をしてるのかが気になります。迷惑かけて生きてる、親に甘えて生きてるよね、反戦運動は支持するけれど、親のお金で悪戯するなんて、子どもだよなぁ



マリファナやLSDを使って現実逃避してる姿に、ちっとも共感できません。あと、不潔そうなのも・・・いやだぁ
どんなに、一見筋の通ったことを話しても、や、フラフラしてる君に言われてもね、と言いたい。



音楽、悪くないような。当時はミュージカルにロックを導入したことが新しかったのだろうなと思うものの、楽曲自体が心に残るかというと、そうでもなかった。



他国の内戦に加担(ベトナム戦争)してる戦争に、自分の命を投げ出す価値があるのか? 後半、徴兵までの数日をヒッピーと過ごしたクロードの新兵訓練の場面があり、オトナも子どもたちをいい様に使ってる、というアメリカの事情も描かれます。



リアルタイムで舞台を観た場合と、10年後に映画化した場合では、振り返った感が強いのかもしれません。あふれるパワーというよりも、若者を描く、というオトナ目線の映画になってましたし。責任ある人物になることを求めている気がしました。誰が父親か分からない子を妊娠している子に、すでに母となっている子が、信じられない、と握手を拒否するところがあって、そうだそうだ、親は良くても子どもがかわいそうだ!と思う。



映像はリアル過ぎず、ファンタジー過ぎず、ほどよい現実感が残っていて良い。



『ベニスに死す』

ベニスに死す Death in Venice 1971年



監督/ルキノ・ヴィスコンティ Luchino Visconti
ダーク・ボガード、ビョルン・アンドルセン



★★★★



パッケージのイメージから私が考えていたものとは、かなり違う表現の映画でした。もっと作曲家のグスタフ・アッシェンバッハと美少年タジオが、関係を深めるような話だと思っていたの(『太陽と月に背いて』のような、地位のある年配者が若い男にたぶらかされる的な・・・) 



こちらは、自信喪失の老境の作曲家がコレラの流行るヴェニスで、美しい少年を見かけます。彼は自分が追い求めていた「美」を見つけたと思い、哀しいほどに思いつめ、ひたすら妄想とストーキングをし、最後には輝く少年を見つめながらヴェニスにて死ぬ、というもの。



観光客でもっているヴェニスの、すでに没落感、たそがれ感があいまって、なんともきれいな画面でした。



主人公の作曲家は、小心者で、かつ自尊心が強く、女性ともうまく付き合えないような男、タフさもない。きもちわるいです。
きもちわるいけど、多かれ少なかれ完璧な美への憧れ、すでに失ったものへの憧憬の思いは、誰にでもあるもので、理解はできる。



本当に切ない主人公の哀れな姿なのですが、哀れなのに、滑稽でさえあるのに、なぜか画面はぎりぎり美しさを保っている不思議さがありました。
行動はきもちわるいけど、身だしなみはきれいだからか。老舗ホテルや周囲の家具、旅行客の衣装の美しさか。



それと、会話がほとんどないのがスゴイ。それでも、2時間あまりの間、飽きることはなかったのでした。ずーっとタジオを見つめ、君は美しい、愛している、などと心の声は流れるのですが、彼自体はじーっとサロンの椅子や砂浜のベンチに座っているだけ。コワイ! ずーっとタジオを見つめるグスタフをじーっと追いかけるカメラ、コワイコワイ。
でも・・・
妄想族としては、分かる! のであって。妄想にまみれて死ぬとシアワセなのだろうか、と思いました。そこで現実に戻っていけるのが、たぶん普通の人のたくましさでしょうが、彼は芸術家であるが故に、そこから動けなかったのですね。



これだけ美少年的扱いをされた、タジオ役の俳優のその後が気になり、ググってしまいましたが、この作品の影響は大きかったようですね。大人になってからは、まぁ普通にカッコいい感じ。





2011/08/08

『シングルマン』

シングルマン A Single Man 2009年



監督/トム・フォード Tom Ford
コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシュー・グッド



★★★★★



何もかも、心の奥に、底に、静かに、でも強く印象が残っていく1本。



長年のパートナーを交通事故で失い、ゲイであることで葬儀にもいけず、彼の居ない明日を迎えるのを死をもって辞めようと決意した、その日いちにちの物語。



■映像は隙がない美しいさ(特に目覚めから身支度のとこ)から始まる。けれど、女友達、美しい俳優志望、学生とのかかわりのなかで、ぱりっとしていたシャツや髪が乱れていく変化が、主人公ジョージの心の変化であって、いとおしすぎてニコラス・ホルト演じる学生の気持ちになってしまうほど。あなたはあぶなっかしいから、って。やーん。



きっちり白い襟につつまれたうなじもセクシーだし、ジャケットを肩にひょいと担いで(大学教授の顔ではなくなって)る背中も、カフスを外した白いシャツ姿、黒メガネでさえも、何だかもう、何も言わないけど、もうわかってるわ!といいたいくらいの色気が漂っていて、くらくらします。



おじさまの(ただしステキなひと)首のうしろって・・・・ また新しいポイントを発見してしまいました。



■自分以外の、今を生きる人と向き合うとき、画面が天然色!という色合いに変わるのも、テクニックというよりはまさにジョージの心象なのだなと素直に受け取れます。青がところどころ入ってくる画面にも、好きな色は青、と教えてあげたくなるような。学生に好きな色を選べといわれて黄色を選んだときのやりとり、なかなか。青を選ぶと思った、と。
学生からは、教授である以外の姿が見えているのね。誰かにちゃんと見つめてもらうのって、大事だわ。



■ニコラス・ホルト
いつの間にこんな美青年になったんでしょう。『アバウト・ア・ボーイ』のヘンな帽子のあの子が!



■ゲイの物語であるとき、たぶん、人間の絆とか、愛のありかた(そもそこ愛って何だろう?っていう問い自体を大いに含む)について、信じられるような気がするのが、私の心を掴む理由じゃないかと思う。



男女には、損得や社会制度が絡んできて、愛のためなのか、社会的な行動なのか、言い切れないものが残ります。だけど、異端者扱いされる男男の関係においてなら、もしかしたら愛と呼べるものなのかと思える気がするのです。
ゲイにも社会的なつながりがあるだろうけれど、私から見る時、これはファンタジーなのかもしれません。





『細雪』

細雪 1983年 東宝



監督/市川昆
岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二、岸辺一徳、細川俊之



☆☆☆☆



きれいねー、きれいだわー、と眺めていた映画。取り立てて大事件も起こらない、旧家の4姉妹の一年の物語。映画では昭和13年の設定。



着物の場面が見たくて借りてきたのだけど、文芸作品・・・と思って見始めたらけっこう面白かったのでした。優雅なひとたちがいたものねぇ たぶん、原作のほうが面白いのだと思うんですが、映像で見るのは目の保養。



女のひとの微妙な意地の張り方やら、男の丸く治めようとするところ、お出かけするときの女たちの仕草、時代の流れと姉妹たちとのかかわり方の変化などなどなど。
傍観者のような立ち居地の視点で、じっと静かに蒔岡家を映します。ある意味、実家の資産も知らないお嬢様なのでバカにした描き方も出来ちゃうけど、好き嫌いに偏る表現はなかったな。だから良いのだと。イデオロギーを入れると、すっごくつまらないお話になってしまうもの。



岸恵子が色っぽくてどこかぽーっとした長女、佐久間良子がしっかり者の次女、この二人がステキなので、三女の吉永小百合は、居るだけで良かった感じ。おとなしそうで実は頑固っていう役どころが似合ってました。末っ子古手川祐子は、いかにも末っ子の拗ねた雰囲気。



薄暗い室内で、岸恵子が翡翠色の着物に帯を合わせる場面、佐久間良子がお手伝いしてて、ただ着付けてるだけなのに、うっとり。
着物を何枚も広げて眺めてる場面も、きれいだったな。このご時勢ではもう良いものは作れない、って話す背中が、この先の日本の暗黒時代を思わせ、切ないのだった。



きちんと着飾るって、いいよなぁ



あと、石坂浩二が若くてかっこいいので見直した。そうか、こんなにカッコよかったのに、いまだにカッコいいなんて、すごいんだなと。