2011/12/11

『気狂いピエロ』

Pierrot Le Fou 1965年 フランス/イタリア



監督/ジャン=リュック・ゴダール
ジャン=ポール・ベルモント、アンナ・カリーナ



★★★★



痛々しい映画。



ただし、あまりに名作の誉れ高いので、自分の★が自分だけの判断なのか自信がなくなる。



ゴダールの映画を見るより先に、ゴダール解説を読んでいるほうが多いのは後から追いかける世代の(仕方のないことだ)かなしさよー。この時、アンナ・カリーナとは離婚寸前だったのだったかしら、そういう私生活の愛の終わりを前提に見てしまうのが、良いのか悪いのか。作品だけを見たいのに、どうしても介入してきちゃうなぁ



小さい頃に見た『勝手にしやがれ』では、日本人にはない濃い表情にカッコよさを見つけられなかったものだった。今ならわかる、ベルモントはいい男だ・・・
この作品中では、昔の恋人であるマリアンヌへ、社会的な自分を捨てた先の光明のように気持ちを向けていたのが、痛々しく切ない。



見終わって、物語の筋を思い起こし、まぁそういうことかな・・・と理解はできるものの、冒頭のベットで死んでる男がなんなんだよ、ってしばらく良くわからなかった。
死体が家にある女とパリを脱出、ガソリン代を踏み倒すにしても、後半の金の取り合いにしても、とても暴力的なことに、戸惑ったままでした。



どう考えても、マリアンヌは悪い女であって、かつ結ばれない相手だった。最期に謝罪したにせよ、彼が望んだ二人はひとつ、にはなれない絶対的にすれ違っている二人のまま。



ずっと、「ピエロ」って呼ばれるたびに、「オレはフェルディナン」と何度も答えるのも、これまた痛々しい。名前は世界からそれを切り離し、特定するものなのに、男の望んだもので自分を見てないことが、何度も何度も繰り返される。



赤い色、青い空、風の音と、盛り上がった途端にふっと切れる素敵な音楽。跳ねるように歩くマリアンヌに翻弄される喜び。



時間が時々、前後しているらしいスクリーン上の展開。



こういう断続的な動きそのものが、男の見ていた世界のよう。殺人や家庭を捨てたことも、マリアンヌとの世界の前ではかすんでいるらしい。



最期に自分の家に電話したのが、現実のそれまでの自分との接点へのコンタクトで、しかしもう戻れないことを確認してしまったともいえる。
ダイナマイトを頭に巻いて、導火線に火をつけてから、慌てて消そうとする手のショットに痛々しさもここまで来ると、確信犯ですね。ゴダール、どっぷり痛々しさを発散してくれよ!という気分になりました。





『マイレージ、マイライフ』

Up in the Air 2009年 アメリカ



監督/ジェイソン・ライトマン
ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック



★★★★



解雇宣告人の仕事で年間300日以上を出張で全米の空を飛びまわっているライアン・ビンガム。密かな目標は1000万マイルを貯めて、飛行機に自分の名前をつけてもらい、フィンチ機長に会うこと。
「バックパックに入らないものは持たない」主義者で、同内容の講演も頼まれるほど。
すべて合理的で、あとくされなく、地上の重力から離れた生活を体現し愉しんでいるはずだった。



わざわざ出向かずとも、ビデオ電話で通告すれば出張費が抑えられる、と新方式を提案した新人を連れ、実際の現場を見せていくライアン。
そしてホテルで出会った同じような雰囲気の女性と出会い、軽い付き合いのはずが、自分に欠けているものは、愛!と、求めるように。けれども、それは彼女のつくっているファンタジーで、実際には夫や子どもがいた。



新人の愛を信じる若い心と、悟ったつもりのオトナの二人。



ハッピーエンディングとは少し違うラスト、中年男子の途方にくれつつ、次の一歩に踏み出したい表情のジョージ・クルーニーが良かった。
思うままにいかないことも含め、何か違うものに変化しようとしているのだから。
空港にいれば、全てを地上に置いて自由になれそうな気がする。ビンガムはそんな気分を味わっていたのかも。



出来るだけ、しがらみから遠く離れて生きていたいのは、私も同じ。彼の華麗な生活に憧れないわけではないけれど、誰かに必要とされていたいとも思う。



ジョージ・クルーニーがとても普通の中年男性に見えていたのが素晴らしい。オーラ消せるタイプなんだって気づいてませんでした。カッコいいけど、田舎町の結婚式にも溶け込めるのね。見直した。



ヴェラ・ファーミガ
30ちょっと、の年齢設定だったのだけど、ものすごく色気があって参りました。超美形じゃないのに、スタイルがいいのと、表情が少しまったりとしてて、素敵。



ほぼ同年齢だというのに、自分との違いにがっかりしまくり・・・





2011/10/10

『スーツの神話』中野香織

ISBN:4-16-660096-6 2000年 文春新書



★★★★



新書サイズで、男性のスーツの歴史をざっと知ることができる。現在のスーツに見られる特徴のもとになっているものが、過去のどこにあるかを特にピックアップしているため、論点が絞ってあって読みやすかった。



やや語り口調の文体が苦手な方もいるのかもしれないけれど、新書ならこれくらい楽しく読めてもいい。むしろ、ホントかしら・・・と思うくらいの調子のよさなので、確かめるためにいろんな文献にあたりたくなる効果があるくらい。



最終コーナーでは、日が沈まない大英帝国の時代の英国人が、かたくなに三つ揃えを着て熱帯地方でも暮らしたことも、世界中に現在の男性服=スーツが広まった要因とのことで、このガマンが大事という点がスーツのスーツたる理由だとのこと。



カッコよく魅せるのなら、スーツでなくても、各国民族衣装が美しいのになぁと思う今日この頃。やっと日本人もスーツが似合う体型になってきたとはいえ、羽織の裾が揺れるのもステキと思う。
スーツであることの理由を理解して着こなせば、もっと自分にひきつけて魅せることができそうです。



というわけで、女性にはスーツが似合わないのだな・・・と痛感。



あと、最近は細身なパンツのスーツが流行っているようですが、合ってない人のむちむち加減が目のやり場に困ります。私だけですか・・・ 多少のゆとりを希望。



2011/10/01

『時計じかけのオレンジ』

A Clockwork Orange 1971年



監督/スタンリー・キューブリック
マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ



★★★★



未来風の建物、衣装、美術。未来風でありながら世紀末風でもあって、今も色あせない。



暴力を誘発する、と当時は言われたようですが、ホームレスを襲って、レイプのため押し入って、金を盗む。ニュースでみかけるものばかりで、発表当時の社会ってまだ映画の影響力が強かったのかと不思議。



社会のルールと人権無視の行いにふける若者と、コントロールのために人権無視(同意をもらっているとはいえ・・・)に近い治療をする権力側の関係を軸に、主人公アレックスの語りで展開していきます。



美しいクラシック音楽の流れる後ろでは、暴力シーンが続く。ステキな「雨に歌えば」を歌いながら、アレックスが女性を傷つけている。
合わない二つが優雅なテンポで流れて、このズレがなんとも言えない世界をかもしているよう。



暴力場面と薬で引き起こす猛烈な吐き気を何度も体験させることで、暴力をふるうと吐き気に教われるようにする治療・・・ それは行為は矯正できても、心は矯正できてない。無気力な人間になるだけで。社会は都合のいい子羊を求めているのだね。



寝巻きみたいなぴたぴたおしゃれ着で反社会的行為を楽しんでいるアレックス、行いは非道なので全くもって嫌いのはずなのに、どういうわけか憎みきれないキャラクター。間違ったことをしてるのに、たまに筋の通ったことを言うとか、妙に説得力がある存在、主演のマルコム・マクダウェルをもってきて正解でした。



10代の設定なんですが、どうもガタイも良くて、10代に見えないのが問題といえば問題か。





『サガン- 悲しみよ こんにちは』

Sagan 2008年 フランス



監督/デュアーヌ・キュリス
シルヴィー・テスキュー、ピエール・バルマード、ジャンヌ・バリバール、アリエル・ドンバール、



★★★



フランソワーズ・サガンの伝記映画。デビュー作「悲しみよ こんにちは」で大金と名声を手に入れた18歳から、亡くなるまでを2時間少々で描く。



最初の結婚、2回目の結婚と出産、交通事故、薬物中毒、麻薬中毒。



駆け足ですべて同じ割合で配分されるので、サガンの人生は激しいが、観ている側には起伏が少なく観えます。サガンの内面には切り込まず、出来事をならべていく感じでした。



サガン役のテステューが痩せて細く、上目遣いなので、かわいそうな人に見えてしかたなかった。サガンの残ってる写真をみると、似せてるなぁと思うものの、フランス映画にありがちなケンカも多く(フランス人の言いたい放題の会話、私には落ち着かない)、サガンの心の推移もあまり見えないために、私は置いてけぼり。



衣装などは可愛くて、マネしたいものも多い。サガンの育ったブルジョワな雰囲気も、垣間見えていい。



男とも女とも恋をして、一緒に住むほど人恋しい様子なのに、うまく息子を上手に愛せなかったり、不器用で生活のバランスがうまく取れない人みたいです。
いずれにせよ、晩年に不幸に見えても、すべて自分で選んだ道。サガンが幸せだったのか誰にも分からないことか。





『サンシャイン2057』

Sunshine 2007年 イギリス



監督/ダニー・ボイル
キリアン・マーフィー、真田広之、ミシェル・ヨー、クリス・エヴァンス



★★



太陽に向かって宇宙旅行はやめておこうと思わせてくれる映画。



ツタヤ100円につき、失敗してるかもしれない映画を観よう推進中。



“太陽が消滅の危機、そこで地球人はマンハッタン島サイズの核爆弾を太陽に打ち込んで、新たな太陽を作ろうと宇宙船イカロスに載せ、出発した。
実は彼らはイカロス2号で、1号はミッション直前に消息を絶っていたのだが、水星近くでイカロス1号の救難信号をキャッチ。空気を作っている船内の農園が火災で焼失してしまったこともあり、1号救出のため航路を変えたところ・・・”



長い宇宙の航行のため、酸素と食料供給のために船内に農園をつくるというのは、すでにあるアイデア、でも、火災だなんてアクシデントがあったら、どうにもならないわね・・・ 人間が空気のないところで生きるのは、過酷な仕事だなと恐ろしくなりますねー。



ストーリーは間違いなく覚えてられるくらい簡単で、しかもオチにひねりはなく、人類は助かる(みたいです)
結果的に、最後に残ったキリアン・マーフィーが地球を救ったことになるんですが、こんなに全人類の希望を背負ってる(我らのバトルシップヤマト、帰るための酸素も船もなくなったので、カミカゼ状態です)のに、あまりミッション!という雰囲気がありません。イギリス人だからか?



それよりも、太陽=神の秩序、という構図が後半のメインであり、神の絶対的な存在に抵抗せず、受け入れたい、という欲求に陥るものが続出でした。
自らの意思で、太陽光に焼かれるものが・・・ え?
飛ぶまえから分かってたのではないかと思うが、そういう問題を解決するために乗務してるはずの精神科医が、最初に焼かれたい病に、日焼けして皮がむけてたぞ。



さらに、神と自分の問題になっていく西洋人のみなさんですが、ラストはミッション成功ですから、ん? となります。太陽も思うがままにできたの? ん?
問題にしてることと、ラストのバランスがちぐはくです。



さて、良かったところは、イカロスのデザイン。
太陽に向かうため、船体全体を大きなパラボナアンテナ型の傘でシールドしています。きれいで、面白い。
これが航路を変更したときに、傘のシールドの一部が破損して、危機に見舞われてしまう。それだけ、水星のあたりでは太陽熱が強烈だと。日焼けに弱い私には、恐怖・・・赤道に近づくだけで、焦げるもんね。



真田広之がキャプテン。
へーーー。真田さんは英語の発音に、いかにもな日本人訛りがない。
冷静だけど、柔軟性もあるいいキャプテンでした。しかし、アンテナ修理のときに、太陽に焼かれて塵になってしまいました。



キリアン・マーフィー。
なぜ彼がこれを選んだのか、さっぱり分からないのですが、物理学者の役です。全然マッチョじゃないけれど、学者にしては気骨のある役柄だった。







2011/09/24

『サヨナライツカ』

サヨナライツカ 2009年



監督/イ・ジェハン
中山美穂、西島秀俊、石田ゆり子、加藤雅也、マギー



★★



人に勧める度は、★1なのだが、西島くんを鑑賞しつつ、いろいろ笑える映画ってことならまぁ・・・。



不思議な演出に戸惑うばかりの私。たとえば、冒頭、大邸宅で光子(石田ゆり子)が婚約者の豊(西島秀俊)にお茶を出すのは、床の上。むむ、光子ったら身持ちが堅いフリして誘ってる!と思ったのだが、たぶん違うよね。韓国の監督だからか?



沓子との逢瀬で、光子からの定時の国際電話にぎりぎり帰宅の豊さん、最後、電話に向かってダイブしてた。ダイブ・・・ 無茶っていうより、バカすぎです。



とりあえず、豊は思われすぎていいトコ取りってことでいいのかしら。妻には尽くしてもらったようだし、光子にも離れたあとも思われてたし。
愛してたのに、どうして25年も会いに行かなかったのか。それは、豊さんは出世したかったからだよね。ずるいよー。NYで探したんだ、とかって! せめて離婚しとけと思うわ。ほんと身勝手ねー。



豊は婚約者が愛人に釘を刺してたことも知らず、立派に出世したのでした。
一度でも愛しているといわれたことはありますか? 微笑みながら言う光子、偉い!てか、怖い。ここから居なくなってください、っていうのもスゴイものがありました。



あー、期待したミポリン頑張ったベッドシーン、ですが(公開時はR15)。全然、セクシーじゃなかった。沓子ってば、無言で部屋に突入して、いきなりセックスするのに、色気なしとは・・・がっかりだよ。
中山美穂は、しゃべらなければ美人と思うけれど、声と喋り方が子どもっぽい。アイドルの頃は、大人びている人だったのに、意外でした。ばかな子?ってくらい幼稚に見えてもったいない。



西島くんは、腹筋鍛えてるのねっていう上半身が見られます。「好青年!」というより、出世のために名家の娘と結婚できる、計算高い男に見えます。あ、それなのに、沓子におぼれたということが言いたいわけか。そうかそうか。
だけど、出世とはかりに掛けるほど、中山美穂がいい女に見えないところが問題だ。



美しい恋愛モノにしたいのか、笑わせたいのか、何だかよくわからない演出に笑ってくださいの2時間です。





2011/09/21

『つぐない』

つぐない Atonement 2007年イギリス



監督/ジョー・ライト
キーラ・ナイトレイ、ジェームズ・マカヴォイ、シアーシャ・ローナン、ロモーラ・ガライ、ベネディクト・カンバーバッジ、ジュノ・テンプル



★★★★



1935年、戦争前夜のイギリス。貴族の娘セシーリア、同じ大学にかよう家政婦の息子ロビー、そして13歳の文学少女な妹ブライオニー。
ロビーに恋していたブライオニー。屋敷でのやりとり、覗き見した(下品な表現の)手紙。ふたりの大人の恋愛に衝撃を受けた直後、いとこが庭で男に襲われているのを目撃した。
ロビーに違いないと思い込んで、嫌悪からもロビーが犯人だと証言し、彼は刑務所へ。医者になる夢も、セシーリアと結婚する夢も、すべて破壊されて。



■屋敷の風景がきれい。
室内はやさしい花柄、庭や森もイングリッシュ・ガーデンとはこれ・・・といわんばかりの満ち足りた風景。画のよう。



■衣装、ステキ。
セシリア姉のセクシー(でも上品)なシンプルドレスも、妹ブライオニーの子ども服も、繊細でうっとり。シースルーの袖とか、下着のレース。どれもすてき。



■小道具が面白い。
この頃にはもうあったんだ!という面白さがたくさん。オイルライター、ペディキュア、電話(いわゆる黒電話なカタチの・・・)、お屋敷が時代モノなので余計に驚く。
ロンドンでは、2階建てバスが走って、地下鉄も。あ、ナルニアの時代と同じか。



■このくらいの思い込みのウソって、子ども時代にはあるかもっていうのが、また痛いところ。
成長して冷静に思い返すと、姉はロビーと愛し合っていたのだし、いとこは乱暴されたのではなく、自分の意思だったのだと分かるけれど、時すでに遅し! こわい。
戦争という不幸なものがさらにあり、幸せに暮らせるはずの二人は、離れ離れになったまま、亡くなってしまった。



ロビーは刑務所か、兵役かと選択をせまられ、ロビーは連合軍としてフランスへ。出征直前、ナースをしているセシーリアとロビーは再会。数年を経たいまも、二人の気持ちは変わっていないことを確かめ、彼女のもとにもどることを縁にフランスへ渡ります。
が、ダイナモ作戦が展開する海岸で、作戦最後の日、ロビーは死んでしまうのだった。



自分が思った以上に、他人を傷つけたこと。骨の髄まで凍みる恐怖・・・



最後、老作家となったブライオニーが最新作「つぐない」出版のインタビュー映像になるなかで語られる、そりゃないよ!な話で、少し落ち着いていた私の気持ちがどん底にー。



ロビーは無事で、セシーリアのところに一時帰還してる様子が描かれていたのだけれど、実際はフランスで死亡。姉も、ロンドン大空襲で死亡。ががーん。
それでは望みがないので、物語は真実とちがう結末にしたのです、と語ってます。



・・・どろどろな話にならないのは、絵画のような映像と、美しい(胸は洗濯板のようだけれど)キーラ・ナイトレイのなせる業でしょう。



・ロビー役、どこかで見たと思ったら『ナルニア国物語』のタムナスさんでした。
・先日、ドラマ放送されてた『シャーロック』のホームズ訳のカンバーバッジが暴行(と思われた事件)の真犯人だった・・・髪が茶色だと、雰囲気違います。やや体重も重そうな。



2011/09/19

『ゲイ短編小説集』O・ワイルドほか

ISBN:4-582-76315-4 平凡社 1999年



★★★



「近代英米文学の巨匠たちの“ゲイ小説”を集約。新たな視点による大作家の読み直しとしても、英米文学の「古典」としても、読み応えある作品集。これぞゲイ・キャノン。(本体裏表紙、解説より)」



最近、Bromanceという造語(brother+romance)を聞いたところだったので、キリスト教圏の同性愛的なものへの態度がとても気になり、手に取ったもの。



同性愛的な人間関係、あるいは同性愛を排除する社会との関係、自己規制などなど。英米文学など手にしたことがないので、面白いものだと思って読みました。



オスカー・ワイルド、ヘンリー・ジェイムズ、サキ、D・H・ロレンス、サマセット・モームなどが収録されています。



ヘンリー・ジェイムズってこんな疲れる話を書くのか!(目的語が隠されたまま、二人の会話が進みます。「それ」「あれ」は起こった、などと)と驚く。まだまだ知らない世界がたくさんだ。
噛み応えのある小説、他にも読んでみたくなる。





2011/09/18

『三銃士』

三銃士 THE THREE MUSKETEERS 1993年 105分



監督/スティーヴン・ヘレク
クリス・オドネル、チャーリー・シーン、キーファー・サザーランド、オリヴァー・プラット、
ティム・カリー、レベッカ・デモーネイ、ガブリエル・アンウォー



★★★



ディズニー製作の、お子様向け活劇。



ひとりはみんなのために!みんなはひとりのために! と元気に叫んで、特になにも残らない。中身はすかすかだけど、魅せるのはうまい、ほんとにうまい。で、3点。



未見だったので、2011年にこの若いキャストを見るのも、時の流れをしみじみと感じる面白さが。チャーリー・シーンはふつうにいい男風情だし、キーファー・サザーランドはユアン・マクレガーに似てるなぁ、なんて。



ミレディもロシュフォールも影うすかったな・・・ 男の子の友情バンザイ! しか記憶に残りませんでした。



『リバティーン』

リバティーン The Libertine 2004年 イギリス製作 110分



監督/ローレンス・ダンモア
ジョニー・デップ、サマンサ・モートン、ジョン・マルコビッチ、ロザムンド・パイク



★★★



リバティーン=放蕩者 



1660年代、王政復古のイギリス。国王チャールズ二世の恩赦を受け、3ヶ月の追放からロンドンへ戻ったジョン・ウイルモットは、芝居小屋で大根役者と呼ばれているエリザベス・バリーの隠れた才能に気づき、「ロンドン一の女優にしよう」と申し出る。一対一の舞台稽古が始まり、2人はぶつかり会いながらいつしか惹かれあうようになる。
やがて感情のこもったバリーの演技が高く評価され、2人は愛を確かめ合う。一方、ジョンの才能を高く評価していた国王は、フランス大使を招く歓迎式典で、ジョンの戯曲上演を計画するが、彼の怠け癖を知る国王は、バリーにジョンの監視を命じる。
式典当日、ジョンは国王を侮辱し、政府をこき下ろす内容の劇を上演し、途中で中止に追い込まれる。
バリーの裏切りを知ったジョンは姿をくらまし、数ヶ月後、名前を変え変わり果てた姿で現れる・・・。(公式HPより)



才能に肉体が負けた典型のような『アマデウス』を思い出す人物像、17世紀には早すぎた才能。
人と相容れず衝突を繰り返す面と、女優バリーとの交流、献身的な妻との愛憎交じりの絆。面白くなりそうなものなのに、何だか手ぬるい感じがするのはどうしてだろう。
人生を追うほど深くなく、物語を派手に盛り上げるほどには、展開はシンプルで。



もとは、ジョン・マルコビッチが主演した舞台だそうで、そのせいかセリフも大仰なものが続き、人物に近づく映画ではかえってウソ臭さが増す残念な結果になりました。



映画もマルコビッチが主演すればいいのにな。憎たらしさ>才能 という早すぎる天才の理解されなささが出たのではないかと。人間として、特別好ましい人ではないところに魅力があるタイプだと思うのですが、なにせジョニー・デップ・・・ 愛嬌がありすぎる!のだ。



17世紀のイギリスの舞台環境がわかる点で、★を1つ追加です。素材はいいのに、料理人が塩梅をまちがえた残念な雰囲気がただよう。



『第9地区』

第9地区 District 9 2009年/日本公開2010年



監督/ニール・プロムカンプ
シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームス、ジェイソン・コープ



★★★★



お金そんなにかかってないんだってね・・・ でも、全体的なチープなSF感と人種問題とがすごいバランスで引っ張りあってて、見終わったら、こういう映画も作れるんだなぁ・・・むむむ、という。アイデアとかわいいエビさんで、かなりうまくいったね。



面白かったかと聞かれれば、これが意外と面白かった。主人公の情けなさ、自己中心的でアイラブミーなところとか。
足がもげれば食べられちゃうわ、簡単に体が粉砕されるわ、げろげろ吐くわ、好物はキャットフードだわで、何から何まで最低なんだけど、最低さが魅力なの。



ある日地球に来て動かなくなった巨大母船。数ヶ月後に助け出された異星人たちは、南アフリカで隔離されている。異質なものは閉じ込めておこう作戦で、フェンスのなかはいつしかスラム化。
20年たったいま、増えすぎた異星人を街から離れたところへ強制移住させる計画がはじまったのだが、作戦を指揮する主人公ヴィッカスが浴びてしまった液体により、体が異星人化・・・(彼らは人間から「エビ」と呼ばれる風体)



エビの知識人、クリストファー・ジョンソンは、その液体を取り戻し、母船を起動させ、故郷に帰りたいし、ヴィッカスは異星人の技術で元の人間に戻りたい。



・差別の問題って、本能的に自分を守ろうとする気持ちが元で、あとは金の問題とかも絡むのね・・・
・主人公がヘタレで最低、最後までけっこう最低。
・エビさんたちが、何だか懐かしい感じ。円谷プロ的な・・・仮面ライダー的なきも可愛らしさがある。
・人間も、かなり使い捨てされてる。兵器製造会社って怖い。
・で、動き始める母船。そもそも地球になんで来たのか、たまたま座礁的なことだったのか、分からないのでした。もしかして応援呼んで、地球破壊しに来るかも。
・あまりに景気よく体が吹っ飛ばされるので、痛いと思わず。







2011/09/04

『苦しまない練習』小池龍之介

ISBN:978-4-09-388182-1 小学館 2011年



★★★



↑いつも<好み>で★を付けているのだけど、これは好みではかりにくい。



表紙には「ブッダにならう 苦しまない練習 シンプルだから実践できる。今日からもう、悩まない・・・」



ここ一年くらい、仏教の考え方に興味があって少しずつ触れるようにしてることもあって、著者の言うことの概略は、そうそう、そうなんだってね、という感じで読み取れる。書き方は非常にソフトな口語体。一見、読みやすい。
結局、それで自分はどうだろうかと、自分自身の考えを見直すことになるので、その場合には、口語体だと文章が長くなるので、うっとうしいような気もした(人のことは言えない私なんだけど)。



もしも、これで仏教思想に興味がわいて、いろんな考え方を知るきっかけになるなら良いんじゃないかしら。



今の私の見方だと、悩みすぎている人には、悩まない練習って大事かもしれない。でも、悩まない人は、ほぼ居ない(悟った人の外は・・・)ので、安易に悩まないって言葉だけを信じないように、と思う。そんなにお目出度い人は少ないか。



苦しまない、に関してはけっこう同意!です。なぜ苦しむのか、その原因は自分にあると考える立場です。苦しいと感じるのは、自分の心が勝手に条件反射的に感じているのだ、と考えることで苦しみと自分自身を離せます。



宗教、信仰というよりは、仏教は思想体系だと思うほうが理解しやすい。極楽の話なども、そう思えば楽になれるのなら、そうかも~と思っていればいい。でも、他人に強要してはダメなのね。





2011/08/21

『エンター・ザ・ボイド』

エンター・ザ・ボイド Enter the Void 2009年



監督/ギャスパー・ノエ
ナサニエル・ブラウン、パス・デ・ラ・ウエルタ、シリル・ロイ、オリー・アレクサンデル



★★★



TOKYOに住む外国人兄妹、兄は薬の売人でジャンキー、妹はストリッパー。ある日、売買中に警察に踏み込まれ、銃で撃たれた兄オスカーの魂は、自分の過去を断続的に思い出しながら、何かを求めてネオンがどきついTOKYOの街を彷徨っていく・・・



自宅のDVDじゃなく、映画館で見たら寝てたかも。魂だけとなったオスカー自身は、何も語らず。映像はオスカーが見ているだろうものを、同じ目線で映していく。この長さが、オスカーの未練の強さなのだろうか、うう、早く未練を断ち切ってくれ!と願いながらラスト30分を耐えました。



カメラがスピードに変化をつけながら、縦横無尽に動くので、すごく目が疲れます。気分も悪くなりました。あたしはもっと素直に死にたいよー。



映像は、刺激的。死ぬ前のトリップ中の映像も、面白い。音や光がゆがんで、強調されて、時間の流れが少しヘンで。
死んでからは、徐々に命ある世界を彷徨うスピードが速くなり、過去の記憶もどんどん入り乱れてくる。どんどん、未練を残したものが何かを突き詰めていくような感じでした。



ストーリーは、素直なもので、幼い頃に両親を事故で亡くした兄妹、兄は死んでからも、幼い頃の約束=ずっと一緒にいる、を手放せずに浮遊していく様を描く。最後は、ラブホテルでセックス中の妹の命の源に溶け込んで、生まれ変わった・・・らしい。



死の彷徨は、チベット仏教の「死者の書」を下敷きにしているのですが、輪廻ってそういうイメージなのか?と不思議です。生まれ変わり先を自分で選べるのかー。



妹の子宮に飛び込んで、生まれ変わるんですよ。しかも、わりと妹と交わって、というイメージがありまして(ペニスの先まで映してくれて、ファンタジーとリアルさの按配が面白い人だな・・・と感心。ギャスパー・ノエ。他の作品も見たくなりました)
妹へのものすごい執着で、これじゃいつまで立っても解脱できそうもなかったですよ・・・。母親の乳房への憧れも描かれるし、胎内回帰願望なんでしょうか。



薬にはまってるときの映像と、魂になってからの映像がとても近いので、トリップ中の目的って全て完璧だったママのお腹に戻る夢を見たいのかもね。



セックスと薬のことが大きく宣伝に使われてますけれど、なかなか純情な男子の願望だなぁと思いました。



2011/08/14

『ハイ・フィデリティ』

ハイ・フィデリティ High Fidelity 2000年



監督/スティーブン・フリアーズ
ジョン・キューザック、ジャック・ブラック、イーベン・ヤイレ、リサ・ボネット、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ティム・ロビンス



★★★★



はー、おもしろかった。ニック・ホーンビィ原作のロックオタク男の物語。同棲してた彼女が出て行ったことで、過去のヒドイ恋愛を音楽と共に思い出していく。
恋愛モノというよりは、ロック愛、音楽愛に生きるダメっぽい男が彼女を取り戻すまでのお話。



私はロック史にうとく、語られる音楽についてのイメージもないので、深いオタク話の面ではツボに来ないのだけど、それでもある世界について語ってしまう人たちの、凄さとバカさについては分かる。深く愛してしまったので、それが人生になっている感じも。



さて、ジョン・キューザックのダサい格好を見ながら、か、かわいい・・と思う自分が恐ろしかった。守備範囲広がったのか。



ジャック・ブラックは安定感抜群の凶暴さと可愛らしさを発揮していて、満点です。
もともとはイギリス人の話なので、セリフの感じはイギリス人ぽい屁理屈や斜めな態度があるものの、ジャック・ブラックのキュートな演技で、鼻につかなくなってます。舞台はシカゴになっていて、シカゴの風景もいい感じ。



ラストのジャック・ブラックが歌う場面、美味しいトコ持って行ってくれちゃって! いい声~



『ヘアー』

ヘアー HAIR 1979年



監督/ミロス・フォアマン
ジョン・サヴェージ、トリート・ウィリアムズ、ビヴァリー・ダンジェロ



★★★★



好き嫌いで言えば、好きじゃない映画になるのか・・・。
60年代のヒッピー文化が良く分かる、という点で4つ★。出演者、ストーリーについては、ふん、若者め・・・という印象で、好みません。



2011年に30代の私が見ると、この当時のヒッピーはいま何をしてるのかが気になります。迷惑かけて生きてる、親に甘えて生きてるよね、反戦運動は支持するけれど、親のお金で悪戯するなんて、子どもだよなぁ



マリファナやLSDを使って現実逃避してる姿に、ちっとも共感できません。あと、不潔そうなのも・・・いやだぁ
どんなに、一見筋の通ったことを話しても、や、フラフラしてる君に言われてもね、と言いたい。



音楽、悪くないような。当時はミュージカルにロックを導入したことが新しかったのだろうなと思うものの、楽曲自体が心に残るかというと、そうでもなかった。



他国の内戦に加担(ベトナム戦争)してる戦争に、自分の命を投げ出す価値があるのか? 後半、徴兵までの数日をヒッピーと過ごしたクロードの新兵訓練の場面があり、オトナも子どもたちをいい様に使ってる、というアメリカの事情も描かれます。



リアルタイムで舞台を観た場合と、10年後に映画化した場合では、振り返った感が強いのかもしれません。あふれるパワーというよりも、若者を描く、というオトナ目線の映画になってましたし。責任ある人物になることを求めている気がしました。誰が父親か分からない子を妊娠している子に、すでに母となっている子が、信じられない、と握手を拒否するところがあって、そうだそうだ、親は良くても子どもがかわいそうだ!と思う。



映像はリアル過ぎず、ファンタジー過ぎず、ほどよい現実感が残っていて良い。



『ベニスに死す』

ベニスに死す Death in Venice 1971年



監督/ルキノ・ヴィスコンティ Luchino Visconti
ダーク・ボガード、ビョルン・アンドルセン



★★★★



パッケージのイメージから私が考えていたものとは、かなり違う表現の映画でした。もっと作曲家のグスタフ・アッシェンバッハと美少年タジオが、関係を深めるような話だと思っていたの(『太陽と月に背いて』のような、地位のある年配者が若い男にたぶらかされる的な・・・) 



こちらは、自信喪失の老境の作曲家がコレラの流行るヴェニスで、美しい少年を見かけます。彼は自分が追い求めていた「美」を見つけたと思い、哀しいほどに思いつめ、ひたすら妄想とストーキングをし、最後には輝く少年を見つめながらヴェニスにて死ぬ、というもの。



観光客でもっているヴェニスの、すでに没落感、たそがれ感があいまって、なんともきれいな画面でした。



主人公の作曲家は、小心者で、かつ自尊心が強く、女性ともうまく付き合えないような男、タフさもない。きもちわるいです。
きもちわるいけど、多かれ少なかれ完璧な美への憧れ、すでに失ったものへの憧憬の思いは、誰にでもあるもので、理解はできる。



本当に切ない主人公の哀れな姿なのですが、哀れなのに、滑稽でさえあるのに、なぜか画面はぎりぎり美しさを保っている不思議さがありました。
行動はきもちわるいけど、身だしなみはきれいだからか。老舗ホテルや周囲の家具、旅行客の衣装の美しさか。



それと、会話がほとんどないのがスゴイ。それでも、2時間あまりの間、飽きることはなかったのでした。ずーっとタジオを見つめ、君は美しい、愛している、などと心の声は流れるのですが、彼自体はじーっとサロンの椅子や砂浜のベンチに座っているだけ。コワイ! ずーっとタジオを見つめるグスタフをじーっと追いかけるカメラ、コワイコワイ。
でも・・・
妄想族としては、分かる! のであって。妄想にまみれて死ぬとシアワセなのだろうか、と思いました。そこで現実に戻っていけるのが、たぶん普通の人のたくましさでしょうが、彼は芸術家であるが故に、そこから動けなかったのですね。



これだけ美少年的扱いをされた、タジオ役の俳優のその後が気になり、ググってしまいましたが、この作品の影響は大きかったようですね。大人になってからは、まぁ普通にカッコいい感じ。





2011/08/08

『シングルマン』

シングルマン A Single Man 2009年



監督/トム・フォード Tom Ford
コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシュー・グッド



★★★★★



何もかも、心の奥に、底に、静かに、でも強く印象が残っていく1本。



長年のパートナーを交通事故で失い、ゲイであることで葬儀にもいけず、彼の居ない明日を迎えるのを死をもって辞めようと決意した、その日いちにちの物語。



■映像は隙がない美しいさ(特に目覚めから身支度のとこ)から始まる。けれど、女友達、美しい俳優志望、学生とのかかわりのなかで、ぱりっとしていたシャツや髪が乱れていく変化が、主人公ジョージの心の変化であって、いとおしすぎてニコラス・ホルト演じる学生の気持ちになってしまうほど。あなたはあぶなっかしいから、って。やーん。



きっちり白い襟につつまれたうなじもセクシーだし、ジャケットを肩にひょいと担いで(大学教授の顔ではなくなって)る背中も、カフスを外した白いシャツ姿、黒メガネでさえも、何だかもう、何も言わないけど、もうわかってるわ!といいたいくらいの色気が漂っていて、くらくらします。



おじさまの(ただしステキなひと)首のうしろって・・・・ また新しいポイントを発見してしまいました。



■自分以外の、今を生きる人と向き合うとき、画面が天然色!という色合いに変わるのも、テクニックというよりはまさにジョージの心象なのだなと素直に受け取れます。青がところどころ入ってくる画面にも、好きな色は青、と教えてあげたくなるような。学生に好きな色を選べといわれて黄色を選んだときのやりとり、なかなか。青を選ぶと思った、と。
学生からは、教授である以外の姿が見えているのね。誰かにちゃんと見つめてもらうのって、大事だわ。



■ニコラス・ホルト
いつの間にこんな美青年になったんでしょう。『アバウト・ア・ボーイ』のヘンな帽子のあの子が!



■ゲイの物語であるとき、たぶん、人間の絆とか、愛のありかた(そもそこ愛って何だろう?っていう問い自体を大いに含む)について、信じられるような気がするのが、私の心を掴む理由じゃないかと思う。



男女には、損得や社会制度が絡んできて、愛のためなのか、社会的な行動なのか、言い切れないものが残ります。だけど、異端者扱いされる男男の関係においてなら、もしかしたら愛と呼べるものなのかと思える気がするのです。
ゲイにも社会的なつながりがあるだろうけれど、私から見る時、これはファンタジーなのかもしれません。





『細雪』

細雪 1983年 東宝



監督/市川昆
岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二、岸辺一徳、細川俊之



☆☆☆☆



きれいねー、きれいだわー、と眺めていた映画。取り立てて大事件も起こらない、旧家の4姉妹の一年の物語。映画では昭和13年の設定。



着物の場面が見たくて借りてきたのだけど、文芸作品・・・と思って見始めたらけっこう面白かったのでした。優雅なひとたちがいたものねぇ たぶん、原作のほうが面白いのだと思うんですが、映像で見るのは目の保養。



女のひとの微妙な意地の張り方やら、男の丸く治めようとするところ、お出かけするときの女たちの仕草、時代の流れと姉妹たちとのかかわり方の変化などなどなど。
傍観者のような立ち居地の視点で、じっと静かに蒔岡家を映します。ある意味、実家の資産も知らないお嬢様なのでバカにした描き方も出来ちゃうけど、好き嫌いに偏る表現はなかったな。だから良いのだと。イデオロギーを入れると、すっごくつまらないお話になってしまうもの。



岸恵子が色っぽくてどこかぽーっとした長女、佐久間良子がしっかり者の次女、この二人がステキなので、三女の吉永小百合は、居るだけで良かった感じ。おとなしそうで実は頑固っていう役どころが似合ってました。末っ子古手川祐子は、いかにも末っ子の拗ねた雰囲気。



薄暗い室内で、岸恵子が翡翠色の着物に帯を合わせる場面、佐久間良子がお手伝いしてて、ただ着付けてるだけなのに、うっとり。
着物を何枚も広げて眺めてる場面も、きれいだったな。このご時勢ではもう良いものは作れない、って話す背中が、この先の日本の暗黒時代を思わせ、切ないのだった。



きちんと着飾るって、いいよなぁ



あと、石坂浩二が若くてかっこいいので見直した。そうか、こんなにカッコよかったのに、いまだにカッコいいなんて、すごいんだなと。





2011/07/28

『幽霊たち』ポール・オースター

ISBN:4-10-245101-3 新潮文庫



★★★★



軽快な出だしから、楽しい探偵家業の話、しかしいつの間にかゆっくりゆっくり密閉空間に閉じ込められていく感覚へ。



探偵は、ブルー。依頼主、ホワイト。調査相手、ブラック。



探偵は調査対象の住む向かいのアパートから、彼の生活を見張り、報告書をホワイトへ送る。簡単な仕事のはずだったのに、何も起こらない。延々と何も事件は起こらない。



何も起こらず、ゆえに探偵の仕事がいつ終わるのかが分からない。ほとんどアパートから出ないブラックをただじっと見つめる毎日を一年以上続けるうちに、探偵は自分自身の生活を失っていく。恋人も失った。そして、思考する時間だけがたっぷりで、自分自身の仕事のことを考え出す。



しかし、ホワイトの差し金でこの不自由なうつろな日々に追い込まれているのではと考えた探偵は、ついにブラックへ話しかける。彼が話すには、職業は探偵であり。誰かを見張る毎日、うつろな目。
自由になりたい、ブルーはついにブラックのアパートへ乗り込む。ブラックは仮面をつけて、銃口を向けて待っていた。ブラックは、ブルー。ブルーの立場は、ブラックと同じ。見つめていたはずの自分が、見つめられていたと判ったときの、背筋の冷たさといったら。



彼の行き先や、ブラックのその後は書かれない。生きてるのに、死んでしまうようなことのひとつが、自分の生活を奪われ、他人のシナリオに組み込まれることなのだ・・・



■もとはオースターが戯曲として書いたものを短編にしたとのこと。それ、読んでみたい。



■ブルーが思い馳せる過去の事件や、雑誌に掲載された未解決事件の描写、映画のような描写でカッコいい。



2011/07/23

『サはサイエンスのサ』鹿野司

ISBN:978-4-15-209104-8 早川書房 2010年



★★★★



SFマガジン連載をセレクト、かつ加筆修正。



科学のコラムはなかなか読まないので、読んでみようかなぁというところで手に取った一冊。客観的を装って筆者の意見がないタイプではなくって、鹿野さんの捉えている現在のサイエンス世界についてのお話がたくさんです。



文体は飲み屋で話しているかのようなスタイルで、パッと見はとっつきやすい。ただ、その科学的な考察そのものを吟味するような科学的知性を、私が持ち合わせていないので、面白い!とかそうきたか!などと思いたいけれど、思えない・・・



そんな私の読みポイントは、何が問題になっているのかを知る、という点です。再生医療、神経、ウィルス、気候変動など私の生活にも影響があるに違いないものを、科学目線で書いてくれてます。



連載をまとめたので、流れがとりとめないのが読みにくいところですが、どこからでも読めるとも。



2011/02/14

『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉

ISBN:978-4-09-386280-6 小学館 1500円



☆☆☆☆



「令嬢刑事と毒舌執事が難事件に挑戦!ユーモアたっぷりの本格ミステリ、ここに登場!」(帯より)



令嬢と執事、令嬢と運転手。といえば私は北村薫が思い浮かびますけれど、こちらの二人は男女で年も近い。らしい。
令嬢らしい事件解決(『富豪刑事』みたいな)ではなくて、あくまでも執事がさくっと解決してくれます。



お互いの立場があるのに、毒舌でお嬢様がコテンパンに言われるあたりが・・・ユーモア? しかし、ドタバタではありません。
ユーモアなら西澤保彦のラインが好きなので、物足りなかった。



短編集なので、読後感に物足りなさがあります。ぜひ次回は長編にしていただいて、何でもできるのに毒舌は直さない執事・影山がどうしてこうなのか?を知りたいです。そのあたりを含め、シリーズ化希望。



ミステリはおどろおどろしくなく、さっぱり目の殺人場面で読みやすい。本格・・・の定義は私には難しいのですが、トリックを解くのはちゃんとしてました。あまりトリッキーすぎないのも、読みやすいです。